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2009.05.25 (Mon)

「完全版 金環蝕」山藍紫姫子

「賭けは、カートの肉体」


ときどきふと読みたくなる山藍紫姫子さんの世界です。
ノーブルで退廃漂う「カート・フレグランス大佐」に陶酔……(笑)。

4872572327完全版 金環蝕
山藍 紫姫子
イーストプレス 2000-11

by G-Tools


【内容】
敗戦後、私ことメルローズ・ビシャスは、父の事業を助けて一族の再興を計ろうとしていた。
そこへ、かつての敵軍将校であるクライシスから夏城への招待状が届けられる。
その敵国人たちの恩恵に与かり、商売するしか一族を養えない私に拒否することはできない。
向かった夏城で、私は敬愛してやまなかった上官カート・フレグランス大佐と再会する。
戦犯として処刑されたはずの彼が生きていたことに驚きつつも、懐かしさでつい声をかけた私にカートの返答は素っ気なかった。
やがて私はその理由を知ることになる。
神秘的な美貌と英知で多くの崇拝者を得ていた大佐は、生死に関わる負傷から目覚めた後、クライシス・ロールシャハティによって夏城に囚われる性奴に身を堕とされていたのだ。
クライシスの客である私にもカートを抱く権利があるという。クライシスは、誇り高い大佐をいたぶる手段として、かつての部下であった私に陵辱させようとした。
カートのしどけない姿を見せつけられた私は、敬愛し続けた上官を力によって自由にできるという、倒錯的な欲情に囚われてゆく。

【書評】
小林智美さんの表紙イラストでよかった~。というのも、1992年に発売されたハードカバー版の短編集『金環触』(白夜書房)と同タイトルなので、小林さんのイラストでなければ読了済みと思って手に取らなかったかもしれない(私は小林智美さんの大ファンである)。
完全版とされる本書は丸々一冊「カート・フレグランス大佐」の連作集となっている。
黒い髪、エメラルドの瞳。華奢で美しく、厳格ではあったが敬愛されていた元上官の背徳の性と、退廃的な雰囲気――陶酔しましたとも。

悪魔的魅力のクライシスのダークで歪んだ心理は、娯楽のためにカートをゲームの駒に堕して喜ぶ。
そして常識人であるはずの紳士たちは、カートの身体にクライシスによって刻まれた被虐の性に群がっていく。そんな紳士たちの陵辱に慄きながら、カートは「金環蝕」にたとえ、密やかに冷笑する。

    「外見は、黄金色に輝いてみえるが、――この裡(なか)は、黒々と腐りはてている…」

だが彼らを支配しているのはカートだと、メルローズは胸に呟く。
己も含めて、快楽の檻に囚われているのだと。

    金環蝕は、天空の太陽が、月も地球も、すべてをその支配化に治めた瞬間でもある
    のだ。(中略)
    「金環蝕は、すべてを内包した、完璧な姿なのだ」と。

それはクライシスの内奥のジレンマをも表している。
クライシスのカートに対する態度はまるで人間扱いしていないように見えながら、その実、深い渇えが窺える。
冷静に計算された狂気じみたクライシスの言動に、カートは翻弄される。心ではメルローズを求めつつも、次第にクライシスに恋にも似た離れがたい感情を抱きはじめる。
それすらも、クライシスの計算のうちであるのかもしれない。彼のジェラシーに燃える熱い身体のみが、カートの心と身体に刻まれた痛みをやわらげることができるのだから。
そんな「熱」を孕んだ支配者と被支配者の間にある危うい均衡は蠱惑的だ。そして魅了されてしまうのだ――メルローズのように。

男同士の幾重にも屈折した愛憎に、物語的あざとさを加味してノスタルジックな情感が漂う作品となっている。得体のしれない何ものかに、どろりとした底なし沼のように深い色のソース(情念)が絡みついているような様は、奇妙に美しく、鍵穴から情事を覗いているような気分になる。

メルローズとカートが戦場でのことに触れたシーンがちらりとあって、その戦場のシーンをもっと読みたいのだけど、物語の進行上、たぶん、ただれたシーンは入りそうもないだから、これは個人的な趣味の問題ね(笑)。
短編集でも密度は濃い。知的かつ官能的に読者をもてなしてくれる作品。と、書いてみたけど、ホントはどうでもいいの。だって「山藍紫姫子」さんなんだもん。

余談だが、1992年発行版では、耽美な作品のほか、妖精などのイラストを描いている青年が、妖精の故郷を訪ねる旅先のヨーロッパで本物の妖精を捕まえ、東京に連れてくるという、山藍作品にはちょっと珍しいコメディタッチの作品など5作品が収録されている。この妖精の話が何だかお気に入り。
(2002,12,18記)



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2009.05.23 (Sat)

「青の軌跡」14年目の完結

1995年に始まった久能千明さんの『青の軌跡』シリーズが14年をかけて、ようやく完結。
途中で出版社が変わったり、
(私は途中まで旧版で読んでいるので、新装版の書き下ろしショートは未読なのがカナシイ)
シリーズ最後の「タイトロープダンサー〈STAGE3〉」が2005年12月に出て以降
音沙汰なし状態だったので、もう出ないのかなーと、いつしか諦めていたから、
〈STAGE4〉〈STAGE5〉がまとめて出版されると知ったときから、
しっかり予約して手ぐすね引いて待っていましたよ!
(作家さんは2年前には書き終えていたとのことで、遅れたのは出版社の都合らしい)

しかし、好きなシリーズとはいえ、いかにせん間空きすぎ。
おぼろな記憶しかないので、取りあえず「タイトロープダンサー」を1巻から読み返し、
「シリーズ完結」の文字に何気にショックを受け、
ああ、私はいつまでも読み続けていたいシリーズだったのだなあ…と再認識。
まあ、ひとつには「シリーズ完結」とはいえ、伏線を拾いそこねていたり、
ラストが唐突にぶちきられたような感じで、
なんだか消化不良気味だったりするためでもあるのだろうけど。

そのうち外伝が出るらしいので、
置いてきぼりになった三四郎が惑星探査船ジュール=ベルヌに戻ってくるまでのこととか、
(なんかBL要素がなさそうだから無理かな)
最終巻に名前も出してもらえなかった凱さんはどーしているのかなーとか、
または、ジュール=ベルヌ帰還後のカイと三四郎のこととか、
いろいろ期待したいのだけど……、
なんとなく、外伝の方向性は違うような気がするのよね。

でも、読む。
すごく楽しみ♪

で、今はシリーズ最初の『青の軌跡』から読み返しています。
年月は沖さんのイラストにも感じられ、なんとも感慨深いものがありますな。


青の軌跡〈上〉 (リンクスロマンス)  青の軌跡〈上〉(リンクスロマンス)
  青の軌跡〈下〉
  久能 千明

  青の軌跡〈下〉 (リンクスロマンス)
   by G-Tools

関連商品
カタルシス・スペル
クリスタル・クラウン〈上〉
クリスタル・クラウン〈下〉
バロック・パール
ペルソナ ノングラータ
ファントムペイン
タイトロープダンサー〈STAGE1〉
タイトロープ ダンサー 〈STAGE2〉
タイトロープ ダンサー 〈STAGE3〉
タイトロープダンサー〈STAGE4〉
タイトロープダンサー〈STAGE5〉
(すべてリンクスロマンス)


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00:06  |  久能千明  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.05.17 (Sun)

「火群の森」榊原史保美

かわい有美子さんの『夢にも逢いみん』を読んで、ふと思い出して再読。
久しぶりだったからそれなりに新鮮だったけど……何度目の再読かしらん(笑)。
榊原さんの作品の中で一番好きな小説です。


1992年太田出版 後に双葉社(新書版)

鼈甲を思わせる深い鳶色の膚と炎燃え立つ赤い髪――次期天皇と噂される父を持つ蜂子皇子であったが、その異貌ゆえ斑鳩の里、「ぬばたまの館」でひっそりと時を過ごしていた。
生れ落ちたときから両親に疎まれ、世間と隔絶された生活の中で、すでに蜂子はすぺてに諦念している。
その蜂子の目を外界に向けさせるのが、桜の薄桃の花びらの如く優しく儚い容貌を持つ厩戸皇子(聖徳太子)の、蜂子を思慕する心であった。厩戸は救世観音の化身として、飛鳥の京で華やかな世界の中心にある。
優しい蜂子と、激しい炎のような気性を持つ厩戸。容姿とは正反対の気性に、2人の皇子は互いに激しい憧憬を抱くようになる。だが蘇我馬子と物部守屋の間に渦巻く政略は、やがて皇子たちの距離を引き離すことになる。

スピーディな展開、絶妙な人物配置、流麗な情景描写、そしてテーマのえぐり方も鮮やかである。二人の皇子様を巡り、蘇我の馬子が策謀を巡らして物部一族を戦いにかりたてて、殲滅してしまうくだりなど迫力があり、歴史伝奇(という分野はないかな)の好きな私は夢中になって読んだ。

厩戸皇子と蜂子皇子の互いの執着は、「恋」という言葉で表現できるものではない。
「世間の見る自分」と「本当の自分」のギャップに悩む皇子たちは、理想の肉体(自分の内面を表している肉体)を持つ相手に出会うことで、その姿こそが自分が求めるものだったと、恋わずにいられない。つまり、他者の姿の中に己の存在意義を求めようとするのだ。
だが、やがて蜂子は真の自分に気づき、救われ、厩戸は己の姿を否定することで自身の矜持を保とうとする。
物理的に遠く離れてしまっても、最後まで相手に心を傾け、信じきる。その己を貫くために生死をかける――これは「恋」なんて生半可な感情ではできない、仏の慈悲にも似た「愛」ではないだろうか。
因みに蜂子皇子は実在の人物ではないので、歴史教科書をひっくり返しても無駄である。


4575005967火群の森 (FUTABA NOVELS)
榊原 史保美
双葉社 1997-08

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【関連ページ】
「榊原姿保美」考
「龍神沼綺譚」
「鬼神の血脈」

*この記事は website【CAFE唯我独尊】から移行しました。

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2009.04.30 (Thu)

「愛するということ」谷崎泉

永遠に行き場のなくなってしまった恋情に、新しい恋を上書きできるか?

4044544026愛するということ (角川ルビー文庫)
谷崎 泉
角川グループパブリッシング 2009-05-01

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デザイナーの壱は、仕事先で今は亡き恋人と同じ声を持つ大企業の社長・灰田に出会う。驚く壱だったが、声以外は似ても似つかない不遜な態度の灰田になぜか気に入られてしまう。人の気も知らずに迫る灰田を邪険にしつつも、灰田の声の昔の恋人を思い出し不覚にも泣いてしまった壱は、強引だけれど優しい灰田の温もりに、体をまかせてしまい…!?「すまないが、お前を諦める気はない」美貌のセレブ×勝ち気なデザイナーのアダルト・ラブ。



谷崎さんのリーマン物は、つくづくワーカーホリックな登場人物が多い。
この小説でも、才能豊かなデザイナー壱(いち)の事務所は、零細だからこそ多忙を極めている。
いつもながら、登場人物は多いし個性的。そして、しっかり酷使されている(笑)。

出会った男は顔も性格も違うのに、声だけが事故で失った恋人と重なってしまう。
耳にする度に、恋人を思い出してしまう息苦しさ。
未だに恋人の死と向き合えない壱が、その声にどうしようもなく流されてしまう様が痛々しくて、
読んでいるこちらまでやるせない気持ちになってしまう。
ゆっくりと、少しずつ歩み寄って、愛を育ててほしいと願いたくなる。

ボロボロの壱を見守る周囲の視線の温かさが、谷崎さんらしくてほっ。
続編がすごく楽しみ。

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16:17  |  谷崎 泉  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.04.27 (Mon)

「明日も愛してる」安芸まくら

「…おやすみ、櫂。また明日な…」


読了したのは去年のことなのだけど、皮膚の表面がざわつくような、
読後感がなんだか定まらなくて保留していた作品。
今回じっくり再読して、あらためて泣けました。

4883863549明日も愛してる (Holly NOVELS)
深井 結己
蒼竜社 2008-08-04

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朝、櫂は知らない部屋のベッドで目が覚めた。ついさっき、眠りにつくまで櫂は十八歳だった。しかし窓に映る自分の姿は、どう見ても高校生には見えないほどくたびれていた。「現在のおまえの年齢は35歳」…枕元に置かれたファイルにはそう書かれていた。戸惑う櫂の前に現れたのは、ツダと名乗る見知らぬ男だった。男に自分の「ハウスキーパー」だと告げられた櫂は驚くが…。―永遠に繰り返されるせつなく甘い愛の物語。


記憶から消されてしまうことは、存在の喪失だという。
恋人であったことさえ忘れられ、日に何度も存在をリセットされ続けているということは、
その度に自身の存在を否定され、あるいは小さな死を与えられるようなものだ。
それでも津田は櫂の側に居続けている。
少しずつ記憶を保つ時間が短くなっていく櫂を、津田はどんな思いで見つめたのか。

恋人に対して津田は日に何十回も自己紹介をしなければならない。
そんな日々を、彼は何年も続けてきたのだ。
永遠に足元が定まらないもどかしさに苦悩する櫂を支えながら、
どれほどの苦しみに津田は突き落とされ続けたのだろう。
恋人同士としての甘やかな記憶も、共に過ごしたであろう共通の時間や体験もなくし、
日々忘却されるだけの残酷。

しかし、これは優しいラブストーリーでもある。
毎日、何度でも二人は恋におちる。
消えゆく記憶の深奥には、確かに恋する心がもどかしくも垣間見える。
付き合って九年、と津田は言った。事故がおきたのが五年前だから、
既に事故った後の櫂との付き合いのほうが長いことになる。
事象は積み重ねられていくが、ストーリーが櫂の視点で進行するため、
真実は最後まではっきりと明かされない。だが、描かれぬゆえにしっとりと心に余韻が落ちる。

ラスト近く、櫂が自分の記憶の部屋を探索し、一瞬だけ事故前の自分に戻り、
ほんの僅かの時間、津田と会話するシーンがなんとも切なくて印象的。

実は「記憶を保てない男」のストーリーということで、
『博士の愛した数式』を連想して身構えていたのだが、
恋愛小説としてはよくまとまっているのではないだろうか。

最後の津田の言葉、
「…おやすみ、櫂。また明日な…」
いきなり泣けてしまった…。
残酷で優しいラブストーリーだ。





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19:12  |  安芸まくら  |  TB(2)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑
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