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2003.07.22 (Tue)

「竜の紋章~Season~(上・下)」 新田一実

生きているという事実が、そのまま何よりの復讐になるのだ。


4756731341竜の紋章 Season〈上〉 (エクリプスロマンス)
新田 一実(にった かずみ)
桜桃書房 2003-06

by G-Tools


【内容】
辺境宇宙に位置する巨大な宇宙ステーション・ダレスに君臨するラグウルは、類稀なる美貌と冷徹な頭脳、辣腕すぎる行動ゆえに、アンドロイドの様だと噂されている。実は彼は哺乳人類とは種の異なる出自で、王の予備として育てられた過去を持つ。孤高なるラグウルを「王のようにも娼婦のようにも扱う男」宇宙貿易商人・ドレイクは、この世界での唯一の同族種だった。
ダレスで起こった珍しくもない殺人事件がきっかけで、二人は巨大組織にその命を狙われることになる。警備主任・ガイアーやその恋人で『未来見』ゆえに短命のユヴェールの行く末をも賭けながら、ラグウルとドレイクの戦いが始まる。

【書評】
舞台は宇宙なのでSFと位置づけられているが、風刺的な表現も多く、ほとんどファンタジーのノリで読める。
ダレスという王国に君臨しながらも、意にそまぬ運命を受け入れなければならなかったラグイルの深奥にある、孤独と多種族への怖れや嫌悪。そのプライドの高さゆえ、決してそれを弱みとして見せまいとするラグウルの唯一の理解者であるドレイク。
シリアスかつ不幸な背景にも関わらず、ラグウルの女王様なヒロイン振りと、彼に蹴られても、銃弾を撃ち込まれても求婚し続ける懲りないドレイクの関係が、ラブコメタッチで楽しい。
硬軟、善悪取り混ぜた脇を固める役者も揃い、細部の肉づけのうまさとノリのよさでついつい引き込まれてしまう。
振幅の大きい作品だが、それなりに陰影をもたせて展開、意地をはるのも命がけなラブストーリーとスペースファンタジーが一緒に楽しめる。

以下余談。
後書きによると作品の「宇宙」の設定はずーっと変わっていないとのことで、天海沙姫名義で書かれた『ノーマッド号の冒険』とも世界が繋がっているらしい。それで再読しようと探したが見つからない。どうやら2、3ヶ月前の本の大整理が原因らしい…なんでも整理する癖がいかん(泣)。ちなみに超絶美形の青年がぞろぞろ出ていたことしか覚えていない……。


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2002.11.11 (Mon)

「殺人音楽」西条公威

「帰りたいんじゃない。……僕は早く産まれたいんだ」


『殺人音楽』収録 1996年 芳文社

【内容】
同人誌で発表されていたスペル・イー・エスのシリーズ商業誌書き下ろし作品。
バイセクシャルでリバーシブルなエスは不完全なものや壊れたものを専門に撮る、自らも壊れたカメラマンだ。アンダーグランドな世界を求めるエスに近づいてくる被写体も、当然ながらどこか尋常でない。

半陰陽のナルとの情事のときに、エスは「殺されたい子供が客を引いている」という噂を聞く。
殺されたい子供――そのフレーズは陰惨な過去を持つエスの深奥に触れた。
その子供とやらを探してたどり着いた廃工場で、エスはルリドとの快楽を買う。
それを商売としているとは思えない、たどたどしいSEX。だがルリドの性癖は、その最中に首を締められることをエクスタシーとする危うい行為だった。犯罪者になりうる綱渡りのような行為にエスもまた、深い悦楽を覚える。
数日後、エスはカモフラージュがわりに連立って来たナルとの情事に耽りながら、男に抱かれるルリドにカメラを向ける。レンズの向こうで繰り広げられるルリドの行為に意識を重ねながら、エスはシャッターを切り続けた。やがてレンズを通してエスは、「殺されたい」ルリドの願いが叶ったことを知るのだった。

【書評】
「殺人」と「音楽」という、見慣れた単語が組み合わされた途端に与える強烈なインパクトにシビレちゃったのが、購入の決め手だった。だがこの作品は、私にとってある意味難解でもあった。
それというのも、たとえば、作品と自分の中にある何かしらの接点、精神的接触があって、感情移入したり共感したり、または嫌悪したりという感情(感想)となるのだと思うのだけど、触れそうで触れられない、掴めそうなのにするりと逃げられてしまうような、何とももどかしいものが私の中にある。
西条作品の、狂気を孕む肉体的蹂躙がやがて精神的支配にいたるまでを描く、いわゆる調教物や、寂しい人間同士が肉体的接触で暖を取り合うような、もの哀しい擬似家族を描いた作品がメジャーだと思われるが、この作品は何とも手触りが異なるのだ。それでいて妙に惹き付ける魅力があって、その謎解をしたいものである……ちょっと弱腰(笑)。

さて、この作品は三人称で書かれているのだが、その視点はエスにある。そして視点に位置するはずのエスが、自身をも第三者的視点まで突き放したところにいることが、ストーリーに独特の浮遊感を与えている。西条氏の後書きに「自己満足で自己完結なシリーズ」とあるが、その徹底的に突き放した視点は、もしかしたら氏の思惑を超えて、エスの感情や感覚をより一層読者に引き寄せているのではないだろうか。

スペル・イー・エスは自分の名前を捨てたことで、過去の呪縛から解放された。だがそれは他者のみならず、自分自身をも捨て去ることでもあった。
ポルノチックなSEX描写や、ある種無残な精神崩壊、そして闇に生きる住人たちの哀切な心理描写――西条氏はベクトルの異なる三つの要素をなんなく融合させてしまったといえるだろう。
その接着剤として使用されているのが、エスの荒涼と乾いた視線である。

「死の恐怖が俺の生になる」と語るルリドは、快楽の頂点に死を間近に感じることでしか「生」を意識できない。

   自分の痛みさえまるで他人のもののように思うのか、それとも痛みとして判断する
   ことこそが苦痛なのか。

無邪気に、無防備に、ルリドは死を望む――「産まれる」ために。死んで産まれてしまったために失った「生」を取り戻すために。
そしてエスは憧憬にも似た視線で彼を見つめる。

   全く一つとして同じものなどないように、様々あって当然だ。
   エスは否定してはいけない自分を知っているから誰も否定することもない。
   ただ受け入れるだけだ。

ナルと交情しながら生と死の間際の危うさを凝視し、冷静にシャッターを切り続けるエス。
哀しくて、寒々しいシーンだ。そこには、見てはいけないものが詰まった箱を開けるときにも似た、微妙に愉悦の混じった不安がある。
おぞましいもの、深刻なもの、陰惨なものをただ見つめる視線。それがこの作品を、そしてシリーズ全体を満たす暗い何かなのだ。

本書にはこの「殺人音楽」のほかに、「精霊憑き」「THREE ORANGES KISSES FROM KAZAN」「Fingered」のSpell.e.sシリーズと他2作品が収録されているが、残念ながら絶版。その他の「スペル・イー・エス」シリーズ単行本未収録分は、西条先生のHP「第8病棟」の「SPELL E.S.」コーナーに掲載されいる。
また、2002年10月発行の『鋭利な刃物』は、同人誌で書かれたSpell.e.s.シリーズを収録。同人作品だけあって、エロも人体破壊の描写もますます冴えている。
ヒューマニズムやモラルだって? そんなもんなぞ軽ーくふっ飛ばした、饒舌でポップでダークな世界が過剰に素敵にてんこ盛り。壊れた世界に興味を持つ人にはたまらない作品集である。

補足:西条先生のHP「第8病棟」は「硝酸銀シャワー」に移転。
[Text]で小説を配信しているが、「SPELL E.S.」コーナーはなくなっちゃっている様子。
西条公威より西條公架(サイジョウキミカ)に改名している。

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