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2003.02.12 (Wed)

「恐怖の男たち」 花郎藤子

1992年8月/発行 白泉社 1997年/花丸文庫(白泉社)

――俺にはあんたしかいないんだ……


内容
アフガンから欧州、そして氷の荒野へと舞台を移しながら、故郷も過去も肉体も、精神すら男
に捧げることを選んだ青年と、血と泥濘の中を這いずりつつも己れの生き方に妥協せぬ傭兵
たちを描いた大作。

額に嵌め込まれたラピス・ラズリ、銀の美貌をもつ青年 アッシュと、血に濡れた虎のようなイライジャ――彼らは「恐怖の男たち(レ・ザフルー)」と呼ばれる傭兵だった。
傍系王族の叛逆により家族を失い、ひとり逃亡を続るパルミラ王国の王太子・焼蘭(シャオラン)が、アッシュの過去だ。アッシュは己れの内にすべてを葬り、イライジャの傍らで、死と硝煙の匂いの中に生きることを選ぶ。

だがアッシュは、CIAやKGBの国家的謀略に巻き込まれ、さらに母国の刺客からも、執拗に追跡されていた。捨てたはずの過去が彼を追い詰めてゆく。
刺客たちの襲撃の混乱の中で、CIAに拉致されたアッシュ。救出に向かったイライジャと女傭兵ライラが救出に向かった目前で、刺客によって彼が監禁された屋敷が爆破される。

アッシュの死を確信したイライジャたちだったが、瀕死の中で彼は生きていた。心身の傷の癒えぬままに、彼はイライジャと行動を共にすることを望む。
イライジャはベトナム時代の戦友・トウキョウ・ジョーと手を組み英国海軍提督をソ連へ亡命させる仕事を引き受ける。だが、ジョーの本当の任務は別のところにあった。
アッシュの裏切りで、イライジャは瀕死を負う。そして、イライジャを死に追いやったと思い込んだアッシュは自閉状態となってしまう。

生き人形となったアッシュの世話をやき、再び生へと目覚めさせたのも、死の淵から生還したイライジャだった。
裏切ったあげく、足手まといとなった自分はイライジャに捨てられてしまうかもしれない――アッシュは恐れ、苦悩する。
やがて、十年前、アッシュが自らの手で生命を奪った妹・衍華(イェンホワ)の生存を知り、イライジャは、望まぬ再会を拒絶しきれぬアッシュとアメリカへ乗り込む。再会した衍華の眼はアッシュに対し憎しみの色しか見せなかった。
一方、ライラもまたパルミラ王国の依頼を受け、暗躍していた。
東西大国の国家的謀略と欲望が渦を巻く中、彼らはそれぞれ己れの生き方を貫いていく。


書評
通称「レ・ザフルー」/1984年から同人誌で書き継がれ1987年完結、後に商業誌化。
花郎藤子ファンの間では、バイブルともいわれ、私を花郎ファンに引き込んだ作品でもある。
作家のデビュー作にはすべてが詰まっているといわれる。この作品にはまさに全て(に近いもの)が詰まっている。ハードボイルドな愛を描き、擬似家族的アプローチあり、特異な人物造型あり、哲学的思索まで垣間見えるような気がする。

主たるテーマはやっぱり「愛」だ。愛といってもそんじょそこらのBLとはわけが違う。擬似親子愛、擬似家族愛、ライバルへの愛、切ない愛、およそ一筋縄ではいかない愛ばかりなのだ。
どいつもこいつも不器用で、矜持は果てしなく高いから、感情をストレートに表現できない。
そのキャラクターたちも魅力的だ。登場人物誰ひとりを取っても、一癖も二癖もありそうなヤツばかり。
アッシュはもちろん、イライジャといい、たくましい女傭兵ライラといい、気のいいフィリップといい、孤独と痛みを抱えつつも己れのいる場所をしっかり見据えている。この連中を生き生きと描き分ける花郎氏の筆のさえは目を見張るものがある。

アッシュは謎の少数民族国家の王太子という、ハーレクイン的設定で描かれている。花郎氏自身が目指したのも「ハーレクイン男性版」だそうだが、それにしては凄惨ではある(笑)。
花郎氏の登場人物たちの系譜から言えば、アッシュは、拠り所のない、アイデンティティを持たない人物として捕らえた方が的確だろう。いわゆる「境界上」に立つ人物といったらいいだろう。

過去は既にあの森の墓穴に底深く埋めた筈だった。今の彼は、名実共にただの人間、ただの傭兵――アッシュだった。
それも、過去を捨て新たに生まれ変わった幻ではなく、逃れ難い業火に焼き尽くされた、一握りのアッシュ――灰――だった。


アッシュの中には何もない。「この世に人間を引き留めるすべて」を、彼は捨てている。
からっぽの彼の、そこに染み込んできたのがイライジャだった。それゆえ、アッシュにとってイライジャの存在そのものが「生きること」のすべてとなり、そのいじらしいほどの純情はそら恐ろしいほどだ。
葬ったはずの過去は、だが、アッシュに食らいついている。
彼を守るために傭兵たちは戦ってゆくのだが、そこは馴れ合いを嫌う一匹狼の彼らのこと、一筋縄でいくわけがない(笑)。

アッシュに「生」の喜びを目覚めさせる一つの手段として、イライジャはアッシュに性の悦楽を与える。それはかならずしも成功しているともいえないし、端からイライジャの行為は「愛」ゆえではない。アッシュにしてみれば、イライジャとの交歓よりも、好きなオレンジを一つ、彼の手からもらった方が数倍も幸せだったりする。そのあたりが花郎氏なんだよね(笑)。
それはライラとの関係にも言える。イライジャとライラの関係はアッシュを核とすることで、擬似家族的な関係にある。だが2人の過去ゆえに緊張感がつきまとう。けっして甘くならない。その橋渡しをするための微妙な位置にいるのがフィリップといったところだろうか。
直接的にはイライジャのカリスマ性は描かれてはいない。矜持の高い一匹狼的存在そのものがイライジャという男だ。

個人的には、女傭兵ライラがお気に入り。もちろん腕力が強いからではなく、彼女の生き方のたくましさが好き。女であることを利用こそすれ、それに甘えない。自分を見失わぬ強さ、したたかな生き様は、女の理想だろう(私だけ?)。その彼女もアッシュにだけにはちょっと弱い。そんな弱さもまた、彼女の人間味を加味している。
途中に大きな地雷がいくつも仕掛けられ、読む者の目を釘付けにせずには置かない。間違いなく良質なハードボイルドなJUNEに仕上がっているはず。
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テーマ : ボーイズラブ - ジャンル : 本・雑誌

18:53  |  花郎藤子  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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