2008.07.23 (Wed)
「小説家は懺悔する」 菱沢九月
きっともう、この心臓は二度と死なない。
![]() | 小説家は懺悔する 菱沢九月 高久尚子(イラスト) キャラ文庫/徳間書店 2005-03-26 |
俺を何度も抱くのは小説のネタにするため…?
小説家・佐々原脩司の家に同居し、ハウスキーパーとして働き始めた律。佐々原は
ベストセラーを連発し、映画化も控えている人気作家だ。仕事上の好奇心だと言っては
何度となく律を抱く佐々原。律は強引な佐々原の思いのほか優しい愛撫に流され、
次第に心まで溺れてゆく…。ところが、佐々原と主演女優のスキャンダルが発覚し!?
律も脩司も「身近な人間の死」がトラウマになっているから、背景は重いけど、
ストーリーは暗くはない。
食事をしたり、ベッドで身体を重ねたりと、日常を重ねながら、二人は少しずつ
自分の傷を打ち明けあける。
しかし、互いの傷を舐めあうような関係にはならない。その痛みをただ受け止めるだけだ。
「どうしたら俺のこと見捨てないでいてくれる?」
この脩司の言葉の、必死な切なさに泣けてしまう。
生きているってことの煩雑さを、いとおしく思えてくるような、ほんのり切なくて優しい読後感。
気持ちを確かめあうラストが心に沁みる。
続編に「小説家は束縛する ―小説家は懺悔する(2)」
ラブラブだけど、ちょっぴり遠く感じてしまう恋人たちの距離感は、たぶん誰でも経験すること。
互いを思う心と、二人の結びつきの深さがよくわかる。
2008.07.17 (Thu)
「黒羽と鵙目」 花郎藤子
「いつだって本気に変えてかまわねぇんだぜ…?」 by黒羽
初版は1996年花丸ノベルズ……もう12年も経つんだなー。何気にショック。
しがないバーテンダー鵙目隆之は、拉致同然に連れ込まれたマンションの一室で、
黒羽組の組長、黒羽斉彬と再会する。
それは16年前の天山少年院で繰り返された陵辱の再開でもあった。
抗いながらも、黒羽の魅力に惹かれていく自分を、鵙目は認めまいとするのだが――。
鵙目の姉に対する思慕、因縁の仲である前田、鵙目と前田の関係を疑う黒羽斉彬との
奇妙な三角関係を中心に、鵙目を慕う落ちこぼれのマサルや鳩子たちを巻き込み、
また巻き込まれながら、物語は現在も進行中。
![]() | 黒羽と鵙目 1 (花丸文庫BLACK) 花郎 藤子 白泉社 2008-06-19 |
花郎藤子氏自身による『禽獣の系譜』の二次小説(パロディ)であるが、
共通しているのは黒羽が極道であることくらいか。
とはいえ、『黒羽と鵙目』の方も切なかったりするが、ライトに書かれているから読みやすい。
こっちの黒羽は(こと、鵙目に関して)オバカで可愛い。いや、私はいらないけど(爆)。
尚、黒羽、鵙目とも上記作品と名前、性格設定なども異なり、
二次小説とはいえ作品として独立している。
性格の相違が楽しいので、以下で人物紹介をさせていただく。
2008.07.16 (Wed)
「私説三国志 天の華・地の風」シリーズ 江森 備
「同性愛がなければ」という怨嗟が絶えない、いわくつきの作品でもある。
冷徹怜利のカリスマ軍師である諸葛亮孔明(以下本書の表記に従い、
諸葛亮ではなく孔明で統一)が同性愛者として描かれているばかりではない。
劉備を中心に蜀内部の血みどろな権力闘争をストーリーの本流として、
登場人物の各人を欲もエゴもあり嫉妬もする生々しい人間として捉えている。
どろどろした人間関係や、水面下での攻防などもリアルに描かれているのも面白い。
つまり、三国志を下敷きにした数ある作品の英雄像をきっぱり裏切っているのだが、
それはこの作品において必然なのだ。
愛を求めつつも、孔明の根底には根強い人間不信がある。
彼にとって他者は利用価値があるか否かでしかない。
たとえ愛を与えられても頑なに心を許すことができない。
それゆえ人々に一目を置かれながらも、孔明は常に孤独だ。
肉からはじまった愛はどんなに固く心を繋ぎあおうと、
結局、肉欲であることに変わりはないのだ。
悦楽に狂乱しながら、孔明の意識はどこかで醒めている。
その孤独な魂を際だたせるための道具立てとして、孔明は同性愛者という異端の立場を与えられている。
さらに、従来は英雄譚として語られる孔明を巡る人間模様が、
身内をも含め矮小に描かれる<必然>を、流麗にして硬質な文体で描き出している。
濃密に描かれた心理描写とともに、政治、経済、戦略戦術、陰謀についても丁寧に、
要所要所で正史の記述が矛盾なく組み込まれており、男色シーンでつまずかなければ、
三国志ファンがハマる要素大――がんばれ!

――ただし、劉備ファンは読まない方がいいかもしれない。
2008.07.09 (Wed)
「理髪師の些か変わったお気に入り」 榎田尤利
![]() | 理髪師の些か変わったお気に入り 榎田 尤利 徳間書店(キャラ文庫) 2008-06-25 |
都心での修行を終え、しぶしぶ実家を継ぐため帰省した美容師の晴輝。
そこで再会したのは、ずっと疎遠だった幼なじみで親友の圭治。
海洋学を学ぶため街を出た圭治は、家業を継いでなぜか理髪師になっていた!!
「お前はこの街にいればいい」
幼い頃のまま世話を焼いてくる圭治だけど、晴輝はその真意が掴めずに!?
近すぎて、その視線の熱さに気づけずにいた……藤井沢商店街シリーズ完結!!
藤井沢商店街シリーズ、最終巻。
2作品が収められており、表題作を晴輝視点で、続編「理髪師の、懊悩やむないお気に入り」は
圭治視点で書かれている。
オムツをしている頃からの幼馴染みで、晴輝が振り返るといつもそこには圭治がいて、
黙って助けてくれた。
それが当たり前すぎて気づかなかったけど、実は好きだったことを自覚する、というのが
「理髪師の、些か変わったお気に入り」。
しかしこの作品の読みどころは、無口で無表情な圭治のミステリアスな胸の内って
ところかもしれない(笑)。
謎多き圭治視点で描かれる二作目「理髪師の、懊悩やむないお気に入り」で、
彼はその内に秘めた心情をバラすことになるのだ。
実は表情筋があまり動かないので顔にはでないが、胸の内はドキドキもの。
圭治の繊細な心は事あるごとにセロハンテープやガムテープが必要なくらい傷ついてしまう。
ただひたすら切ない恋を抱き続け、現実に胃に穴まで開けるほど臆病なところが、
なにやら可愛いくて、妙にツボ。
最終巻らしく、続編には今までの主人公たちも登場。
同窓会の近況報告みたいで、楽しく読了。
シリーズ関連本はこちら↓
2008.07.09 (Wed)
「37℃」 杉原理生
「そんなにやさしいのに……どうして冷たいんだ?
――両想いなのに、片想い。ずるい大人の恋の物語!!」
その通り――大人はずるい。
でも孤独を知るからこそ、大人だって寂しいし、ひどく臆病なのだよ。
「悪いんだけど、俺をしばらく 泊まらせてくれないか」
銀行に勤める野田に突然掛かってきた数年ぶりの電話。それは、大学時代の野田の秘密を
共有する男、若杉からだった。
泊めることを了承してしまえば、面倒なことになる・・・
そうわかっていながら、野田は頷かずにはいられなかった。
とっくに終わったはずの関係だ・・・それなのに・・・? 静かな熱病のような恋が始まる!
杉原理生さんはお初の作家さんなので他の作品と比較できないのだけど、
まず感じたのは、一人称で書かれているのに突き放したような乾いた文体が、
翻訳物を読んでいるような硬質な印象だったこと。
何度も身体を重ねても、ついにかみ合わなかった二人の過去。
再会後も、けっして埋まらない若杉との温度差、野田の葛藤。
やがて、野田の肌が忘れられなかった熱の意味に野田自身が気づき、
それに向き合うまでの心理を努めて淡々と、そして繊細に描写している。
乾いているのに息苦しい地熱を孕んだような独得の雰囲気に、
久しぶりに切ないJUNEを読んだような気がした。

「37℃」(SHY NOVELS 206)
杉原理生
2008.07.09 (Wed)
「ビューティフル・プア」 榎田尤利
いつの世にも変わらぬ真理である(笑)。
貴族でも、そうじゃなくても、あなたはあなたでしょう?」
父親の命で、遠い異国へとやってきた玲一郎。貧乏のあまり、自らを売りに出した
侯爵・アロウが所蔵する絵画が目的だ。彼を求めて大富豪が集まるなか、唯一庶民の
玲一郎はなんとか侯爵に近づこうとする。その超絶美貌にも揺らがなかった玲一郎だが、
彼の人柄に触れるうちに、なぜだか心から笑う顔が見たくなり―。
榎田流ノーブル・ロマンス。
設定は美貌の貧乏貴族様の身売りと突拍子もないが、
王道路線を突っ走る物語の勢いに、一気に引き寄せられてしまった。
キャラクターも個性的で魅力があるし、コメディとシリアスのバランスも良い。
公爵が、なぜ「身売り」という手段を選んだのか。
窮地にあって、なぜある一枚の絵だけを売らないのか。
軽やかだがコミカルでシニカル、謎解き要素もあって最後にじんわり。
これぞ榎田流ってところか。
稲荷屋房之介さんの麗しいイラストもまた相まって、うっとり蕩けさせていただいた。
そういえば今回舞台となったトリニティア(架空の国)は、
この作品とほぼ同時期に出版された『菫の騎士』にも登場している。
もしかしたらシンクロしてシリーズ物になっていくのかしらん――ワクワク。
あ、出版社が違うか。

ビューティフル・プア (B-BOY NOVELS)
榎田尤利
2008.07.05 (Sat)
「野良猫とカサブランカ」中原一也
男に飼われていた過去を持つバーテン・律は、どこか陰のある傲慢な刑事・須田に捜査の
協力を頼まれる。母譲りの美貌と線の細い躰に反して生意気な律の反応を面白がり、挑発
してくる須田。憤りを隠せない律だったが、消し去りたいはずの過去を互いに抱えながらも、
対峙する強さをもつ須田に掻き乱されていく。
意地の張り合いと酒の勢いから、律の中に眠る被虐の血を呼び起こす須田だったが…。
責め苦に悶え悦ぶ罪深い躰を思い知らされた律は!?
消してしまいたい過去が、痛い。
でも、消すことはできないし、
やり直すために時間をさかのぼるなんてできない。
叶わないのなら、自分を誤魔化すしかない。
だから律は、その過去を他人に自慢げに誇示し、自虐する。
足元をすくわれて競争社会からはじき出された須田もまた、
人生の痛みを知っている。
だが彼は、早々に重荷を投げ捨てることで再生を果たした男だ。
手負いの獣のように自分を傷つける律を、
過去の呪縛から解き放つべく、荒療治をするのが須田である。
しかし事件は、律を過去に引き戻そうとする。
そのあたりはBLにしては、少しばかり不気味にマニアック…かもしれない。
この頃感じるのだけど、私ってば、すっかり擦れちゃったらしくて、
このくらいのエグさじゃ、ビクともしなくなっているみたいなんだけど(苦笑)。
後書きによると、危うく○○プレイを挿入するところだったとか。
中原さんのヘンタイさん度が垣間見えてウプププですが、
個人的には苦手なので、思いとどまっていただけて良かったな、と…

「野良猫とカサブランカ」
(ARLES NOVELS)
中原一也
2008.07.01 (Tue)
見つからない…
そちらにかかりきりになると、また更新が滞るという悪循環に陥ることが判明。
ログの移行は時間があるときに少しずつやっていくことにしますだ

なので当分の間、一般小説のレビューは、Home Pageの方にリンクします。
CAFE唯我独尊(HP) > 迷夢書架(一般小説index)
作者別総合indexこちらも
ぜひ、遊びに来てやってください(別窓で開きます)。
記事にコメントやTBをしてくださった分も消えちゃったわけで…こめんなさい。
でも……いっそ、消えちゃった分はすっぱり諦めるかなぁ…




