FC2ブログ
2020年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2008.07.16 (Wed)

「私説三国志 天の華・地の風」シリーズ 江森 備

「江森三国志」とも言われる三国志パロディ本の力作。
「同性愛がなければ」という怨嗟が絶えない、いわくつきの作品でもある。
冷徹怜利のカリスマ軍師である諸葛亮孔明(以下本書の表記に従い、
諸葛亮ではなく孔明で統一)が同性愛者として描かれているばかりではない。
劉備を中心に蜀内部の血みどろな権力闘争をストーリーの本流として、
登場人物の各人を欲もエゴもあり嫉妬もする生々しい人間として捉えている。
どろどろした人間関係や、水面下での攻防などもリアルに描かれているのも面白い。
つまり、三国志を下敷きにした数ある作品の英雄像をきっぱり裏切っているのだが、
それはこの作品において必然なのだ。

愛を求めつつも、孔明の根底には根強い人間不信がある。
彼にとって他者は利用価値があるか否かでしかない。
たとえ愛を与えられても頑なに心を許すことができない。
それゆえ人々に一目を置かれながらも、孔明は常に孤独だ。


  肉からはじまった愛はどんなに固く心を繋ぎあおうと、
  結局、肉欲であることに変わりはないのだ。


悦楽に狂乱しながら、孔明の意識はどこかで醒めている。
その孤独な魂を際だたせるための道具立てとして、孔明は同性愛者という異端の立場を与えられている。
さらに、従来は英雄譚として語られる孔明を巡る人間模様が、
身内をも含め矮小に描かれる<必然>を、流麗にして硬質な文体で描き出している。

濃密に描かれた心理描写とともに、政治、経済、戦略戦術、陰謀についても丁寧に、
要所要所で正史の記述が矛盾なく組み込まれており、男色シーンでつまずかなければ、
三国志ファンがハマる要素大――がんばれ!
――ただし、劉備ファンは読まない方がいいかもしれない。


【More・・・】


【関連ページ】
■ 私説三国志 天の華・地の風 (シリーズ書評)…このページです。
■ 私説三国志 天の華・地の風 一
■ 私説三国志 天の華・地の風 二
■ 私説三国志 天の華・地の風 三
■ 私説三国志 天の華・地の風 四
■ 私説三国志 天の華・地の風 五
■ 私説三国志 天の華・地の風 六
■ 私説三国志 天の華・地の風 七
■ 私説三国志 天の華・地の風 八
■ 私説三国志 天の華・地の風 九
■ 作者略歴

初出は雑誌『小説JUNE』、1986~1998年に光風社より単行本発行。
2007年、fukkan.comから復刊。江森備 復刻特集ページで復刻版の購入も可能。
※全10巻で刊行(光風社版は全9巻)。
【各巻収録内容詳細】
1~8巻⇒光風社版と同じ
9巻⇒光風社版9巻の大部分
10巻⇒光風社版9巻の一部+光風社版未収録の外伝2本
小林智美さんの麗しいイラストがないのが残念


ところで、姓名と字を続けて表記して「名前」としているなど中国史物として逸脱していると
批判もあるが、江森氏はあえてそれを選択しているのだと思う(註)。
それほど作者は三国志を勉強している。
率直に言って、三国志の知識は男性諸氏が好む(?)北方謙三版を読むかぎり比べると遥かに上。
論文の一つや二つ、軽く書けるほどの巻末の参考文献の膨大さにも驚くが、
実に綿密に考証されており、歴史小説としては正統派である。
だからこそ「同性愛でなかったら」という怨嗟(嘆き)の声があがるのだけど、
濡れ場はそんなに多くはなし、露骨な描写はない…と思う。


   (註)中国歴史物を読むとき、まず悩むのが名前。名前は姓と名、そして字(あざな)があり、
   幼名もある。たとえば「劉備」は、劉=姓、備=名前、玄徳=字(通称)で、劉予州とも呼び、
   これは役職(むーん…)。
   諸葛亮、字は孔明。本名で呼ぶのは、主君か一族の父、有力者しか許されなかったらしい。
   通常は字をとって諸葛孔明と、名より通称の字で呼ぶことが多いはずなのだが、
   どうやら『三国志』ファンの間では違うらしい(?)。ここがよく分らない…すみません



*この記事は website【CAFE唯我独尊】から移行したものです。

テーマ : ボーイズラブ - ジャンル : 本・雑誌

22:10  |  江森 備  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://meimu2.blog70.fc2.com/tb.php/397-595007be

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |