FC2ブログ
2020年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2002.07.01 (Mon)

花郎藤子「禽獣の系譜」

「俺より、独りがいいのか……?」


内容
初版は1992年白泉社ハードカバー/のちに花丸ノベルズで再版。
極道JUNEという特殊な男世界を描いた作品である。
北日本を支配する木賊(とくさ)組の組長の一人息子 木賊烈は、おとなしく、暴力を嫌う17歳の少年だ。組の後継者として期待する父と、気弱さゆえにますます萎縮してしまう烈。それゆえ烈は孤独だった。
だが突然の父の死によって、跡目をめぐる義母との確執や内部抗争が起こる。重責に潰されそうな烈の支えとなるのが、烈が思慕を抱く組の若頭 黒羽周次の存在だった。

内部抗争は苛烈さを増して幹部の多くが狂刃に倒れ、黒羽もまた組を追われそうになる。
黒羽が不在の間に組員の平山の邪まな欲望にさらされ、烈は、黒羽への思慕が同性を肉体的に求める感情だと思い知らされる。
なすすべもなく蹂躙される烈の前に、ある決意のもとに黒羽が現れる。実は黒羽は、日本の統合を目指す広域暴力団 天堂会から送り込まれていた人間だったのだ。
その傘下に組み込まれることで木賊組は事実上崩壊し、烈は極道社会のしがらみから解放されたはずだった。
だが寂しさに突き動かされるように黒羽を頼って東京へ向かう。

(以下、[内容]ネタバレなので【Read More・・・】へ)


書評
私は花郎藤子氏のファンである。だがこの小説を読んだのは遅かった。
なぜなら極道にロマンを求めていないし、感じたくなかったのだ。
私の知る極道とは、鶴田浩二とか高倉健、菅原文太さんが演じたやくざ映画の世界だし、
映画館から出てきた男はつい肩をイカらせて歩きたくなってしまうらしい、という世界に
過ぎないからである。
でも読んでみたら極道にロマンを感じたばかりでなく、泣けちゃったんだな、これが。

3章からなるこの作品は、いかにも花郎氏らしい、すみずみまでピシッとはりつめた無駄のない
文章で、端正な作品になっている。

極道というある種の閉鎖空間で、彼らが人間存在の哀しさ、生きることの寂しさ
(なんていうと安っぽいセンチメンタリズムに聞こえるかもしれないけど)を
とことん身体をはって追求し、かみしめ「男」という看板に孤独な仲間意識を見出す。
それは寄り集った「家族」なのである。
閉鎖された時間と空間の中で、たまたまよろめくように人間同士が縺れ合ったり、
親子になったり、死んでいったり、という男の生き様の哀れというか、目出度さというか、
賑わいというか、それらの描写はJUNEの枠に収まりきらないのではないだろうか。

物心ついた頃から孤独だった烈は、男に恋した自分にコンプレックスを抱きながら黒羽を求め
続けるのだけれど、孤独感は人肌を恋しがらせる。行きずりの男たちの性交渉、己の痴態を
嫌悪しつつも黒羽を求めてしまう飢餓感、さらに靫正とのSEXなど、人肌の恋しさゆえの行為に
思える。

そして烈は呟く。
黒羽にあるのは「ひとりぼっちの子供を見棄てられなかった」慈愛のようなものだろうと。
そうとしか思えない烈の心情は悲哀というか、もの哀しい。
それでも黒羽を愛することで烈は救われるのだ。
その、もの哀しい愛を、氏は極道という背景や都会の雑踏の中に書き込んでいく。
それは歌舞伎町や渋谷だったり、覗き部屋だったり、尚の安アパートだったりするのだけど、
それらがいちいちピタッと人物たちと合っている。

最終章の「龍の系譜」では、烈の愛は昇華してしまっているように思う。
心はすでに黒羽とともに彼岸に渡ってしまっており、失った存在を悲しみながらも、
結果としては愛したことに充足している烈がいる。

ところで黒羽周次という男は、それこそ着流しの鶴田浩二さんが演じた一昔前の任侠道を
地で行くような男で、ストイックな中に熱い滾りを垣間見せるお方である。
因みにナンバー2に弱い私は、ここでも黒羽の右腕的存在 鵙目氏のファン。

当然(かどうかは分からないが)黒羽の周囲には「男心に男が惚れた」とか
「あんたのためなら命も捨てる」という極道の男たちが集まってくる。
こういう心理って男独特のもので、もしや男という生き物の中には多かれ少なかれホモ因子が
潜んでいるらしいと、女の看板をしょっている私はつい薄ら笑いを浮かべてしまう。
たぶん根源的なところでは、女には理解できないのだろうと思うのだ、悔しいけど。
ま、一方ではこういう世界にホロッとしていちゃイカンなと思いつつ、
しかし、やっぱりしんみり泣かされてしまう小説なのでありました。

kinjyu0a.jpg





 『禽獣の系譜』禽獣の系譜
 花郎藤子
 白泉社 (1992/12)


[内容ネタバレ続き] 入手困難本なので思いっきりバラしています。

【More・・・】




故郷で兄弟のように育った尚と再会し、天堂会の代貸(若頭)にして青龍会の頭である黒羽のもとで暮らすようになる。
多忙を極める黒羽や組員たちや、将来を見据える尚とひきかえ、宙ぶらりんの自分の立場に烈はますます孤独感を募らせ、いつしか新宿2丁目に足を運ぶようになってゆく。
そこで烈は黒羽と敵対する片桐組に拉致され、覚醒剤を与えられて性的玩具とされるも、すでに自分へのコンプレックスからすべてを諦め、黒羽のもとに戻ることすら拒もうとする。
そんな烈を受け入れた黒羽は自身の矜持と報復のために立ち上がり、烈を汚された尚もまた、血塗れた復讐へと向かった。

2年後、20歳になった烈は大学に進み、友人も得る。
その侠気から多くの男たちの信奉を得る黒羽もまた、鵙目夏彦を右腕に天堂会の巨額な金を運用し、絶大な信頼を受けていた。烈と黒羽は深く結ばれていたが、烈を諦めない平山の出現で不穏な空気が流れはじめた。
烈の身辺に気を配っていた黒羽は、だが、黒羽に偏執的な思いを抱く赤木によって爆殺される。その瞬間を目の当たりにした烈は、刑事を傷つけて強奪した拳銃で、驚くほど冷静に平山と赤木を射殺した。それは烈を、ますます極道社会の深みへと引きずり込んでいくこととなる。

5年の服役中、生前に黒羽が申請していた養子縁組みの許可が下り、烈は「黒羽」姓となった。黒羽の仇を打ったことで出所した烈の評価と立場が大きく変わっていた。
鵙目の助力を受けながら烈が組長代行にもなれた頃、黒羽の息子、靫正(ゆきまさ)が現れる。
周囲の反対を受けながら、烈は龍青会の跡目に靫正を据えることを考えていた。
黒羽とは正反対の印象の靫正だが、彼の背後に烈は黒羽の影を求めて幾度となく身体を重ねる。
やがて烈は、画策をもって、靫正を跡目として周囲に認めさせる。それを見届けて、烈は黒羽のあとを追って自らの命を絶つのだった――。

テーマ : ボーイズラブ - ジャンル : 本・雑誌

17:22  |  花郎藤子  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://meimu2.blog70.fc2.com/tb.php/407-58e83073

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |