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2002.12.06 (Fri)

柏枝真郷 「硝子の街にて」シリーズ

「おれは、とんでもないガキに惚れちまったらしい」



シリーズ書評
ミステリとしての味わいもさることながら、旅行会社でバイトをする伸行(ノブ)と、その幼馴染みで
あり、NY市警察本部殺人課警部補シドニーの関係が少しずつ変化していく過程が丁寧に描かれ、
純愛小説としても楽しめる。

柏枝作品らしく、それぞれの犯罪には哀しい動機が秘められている。
一般的に「人は何度でもやり直しができる」といわれるが、世の中には、どうしても償いようのない
過ちや、癒されたようにみえても積もってゆくだけの痛みがある。ほんのボタンの掛け違えとも
いえる齟齬から引き起こされてしまう事件は、人間の業が滲んだ切なさがある。
少しずつ事件関係者の内面を覗き、自分の人生を見つめ直しながら、その哀しい心理にシンクロして
しまうことで、ノブは犯人に行き当たる。

ティーンズ・ノヴェルということもあって『DESPERADO』シリーズに比べるとライトで、空間の中に
流れている風の感触というか、乾いた空間感覚で重く沈鬱になりがちなテーマも読みやすい。
また、ゲイの描き方も、ティーンズ・ノヴェルにありがちなモラトリアムな関係ではなく、NYという
社会背景を下敷きにマイノリティな部分もさり気なく描かれており、好感が持てる。

【More・・・】

己を過小評価しがちなノブは、シドニーの負担になることを心配するが、その実、ノブを喪失すること
への怖れはシドニーの方が大きい。心に深い傷を負う彼にとって唯一失いたくない存在が、
シドニーに絶対の信頼を寄せるノブだ。

「おまえもさ――もっと寄っかかっていいんだぜ。
他の面で、おれもおまえに寄りかかっているんだから」

おニブのノブには自覚できなかったが、シドニーはさり気なく孤独を吐露している。
そんな2人の関係を端的に言い表しいてるのは、シドニーとコンビを組む同僚のヘンリーと、
彼の奥方のケートかもしれない。
ヘンリーは、シドニーにとってノブは「精神安定剤みたいな存在」と評し、ケートは「最後の拠り所
みたいなもの」と認識する。

「もしも世界じゅうの人がシドニーに背を向けても、ノブだけは信頼してくれるような
(略)たとえ失敗したり、やりすぎて間違いを犯しても、ノブだけは、きっと理解して
くれるだろうと思えるんじゃないかしら」

きっと誰もがそういう相手を求めているだろう。
でも逆に、そこまで求められるとしたら――相当の精神的な強さがないと支えきれないし、
プレッシャーになってしまうかもしれない。
ノブのすごいところは、自覚のないままにそれができてしまうこと。
そして一見頼りなく見えるノブの、他者をあるがままに受け入れられる、しなやかで強靭な精神に
気づかされる。
自分をそのままで受け入れてもらえるほど心地のよく、力強い存在はない。これはもう、シドニーじゃ
なくても手放せないってものだ。

ようやくノブがシドニーへの想いを恋と自覚しても、シドニーはさらに葛藤する。
そのためにはゲイというハードルを超えなければならない。それは2人の関係だけではなく、
社会的に大きなリスクを負うことでもある。だからこそシドニーは煩悶するのだ。
ゲイということで自分が負ってきた痛みをノブに味あわせることを怖れて。

紆余曲折を経て、ようやく恋人として向かい合う2人。
愛しい人に側にいて欲しいと思うのは恋する者の自分勝手な傲慢なのか、甘えなのか。
互いに求め合う相手でも頼り切ることを潔しとしない男としての矜持もある。

5巻目『朝-MORROW』でシドニーがノブに「I LOVE YOU」を告げたあたりから、どちらかというと
ミステリよりも、ノブがシドニーへの想いを自覚していく心理描写、湾岸戦争に従軍したシドニーの
負った心の深奥や、ゆっくりと進行していく2人の関係の方に重点が置かれているように思う。
でも、決してミステリに手を抜いているわけではないから、誤解なきよう。
「ピュア」なラブストーリーとしても心地よく酔わせてくれる。

【硝子の街にて 全シリーズ】
硝子の街にて /1  『窓-WINDOW』 (1996年4月)
硝子の街にて /2  『雪-SNOW』(1996年10月)
硝子の街にて /3  『虹-RAINBOW』 (1998年1月)
硝子の街にて /4  『家-BORROW』 (1998年5月)
硝子の街にて /5  『朝-MORROW』 (1999年6月)
硝子の街にて /6  『空-HOLLOW』(2000年6月)
硝子の街にて /7  『燕-SWALLOW』(2001年2月)
硝子の街にて /8  『宵-AFTERGLOW』 (2001年6月)
硝子の街にて /9  『渦-BILLOW』(2001年11月)
硝子の街にて /10 『烏-CROW』 (2002年3月)
硝子の街にて /11 『矢-ARROW』 (2002年07月)
硝子の街にて /12 『禁-DISALLOW』(2002年11月) 
硝子の街にて /13 『黄-YELLOW』(2003年4月) 
硝子の街にて /14 『塵-WINDROW』(2003年7月)
硝子の街にて /15 『転-WALLOW』(2003年11月)
硝子の街にて /16 『兆-FORESHOW』(2004年3月)
硝子の街にて /17 『潮-FLOW』(2004年7月)
硝子の街にて /18 『翳-SHADOW』(2004年12月)
硝子の街にて /19 『風-BLOW』(2005年3月)
硝子の街にて /20 『悼-SORROW』(2005年8月)
硝子の街にて /21 『暁-SUNGLOW』(2006年1月)
硝子の街にて /22 『友-FELLOW』(2006年7月)


*この記事は website【CAFE唯我独尊】から移行しました。

テーマ : ボーイズラブ - ジャンル : 本・雑誌

19:26  |  柏枝真郷  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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