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2003.05.26 (Mon)

「上海~うたかたの恋」かわい有美子

「頼む、生きのびていてくれ」


kawai002.jpg 「上海―うたかたの恋 」
  かわいゆみこ
  ビーボーイノベルズ
  1998-08







爛熟の文化を誇った1900年代初頭の上海外国人居留地を舞台に、英国貴族で豪商でもあるレイモンドと、その屋敷で育った中国人執事 エドワードの身分違いの恋を描く。
メイドをしていた母が駆け落ちし、残された幼い少年は彼の母が勤めていた貴族の屋敷に引き取られる。自分の名前も知らない中国人の彼はエドワードと名づけられ、子息のレイモンドと共に育つことになる。優しいレイモンドをエドワードは慕うが、やがてレイモンドは13歳になるとパブリックスクールへ入学する為に帰国してしまう。
大学を卒業して上海に戻ってきたレイモンドの傍で、エドワードは有能な執事として仕えることになる。だが彼の心の中は、報われぬ想いとは知りつつも、レイモンドへの思慕がひっそりと、そして熱く根付いていた。


身分も金も容姿をもすべて兼ね備えた若き英国貴族と、身も心もひっそりと捧げ尽くす健気な
美青年といったら、ハーレクイン的メロドラマといったところ。
だが、満州事変から第二次世界大戦へとひたひたと忍び寄る時代の翳り、退廃的で華やかに
爛熟した魔都「上海」の魅力、英国貴族の矜持、自国にあって見下される地位にある中国人など
の背景が、ありがちな主従関係の恋物語に厚みをもたせている。
たまにはこんな恋物語にうっとりと浸りたくなるのも乙女心ってもの(笑)。

【More・・・】

捨て子同然だったエドワードを厭いもせず教育を与え、さらに一人息子の遊び相手として大らかに
認める英国人夫妻や、彼の資質を見抜き、執事とすべく育てる生粋の英国人執事長といい、
生まれは不幸だったものの、エドワードを取り巻く人々の優しさがよい。
それゆえ、エドワードにとって「その場所」だけが自分が在る場所となる。
親に捨てられて途方にくれるエドワードに差し伸べられたレイモンドの手は、彼が初めて知る家族に
近しい温もりだったのかも知れない。

レイモンドと別れていた数年間にエドワードの思慕は、やがて恋慕の情に育ってゆく。
それ故、エドワードは彼の役立つための人間=英国式マナーを備えた執事となるべく努力したの
だろう。エドワードにとって、それだけが自分の存在価値だと思われただろうから。

二人が再会をはたしたからといって、恋が成就するわけではない。
レイモンドは、かつての幼馴染みが完璧な執事と成長した姿に苛立ちすら募らす。それでも幼いころ
の絆は、主人と使用人としてきっぱり割り切れるものでもない。
熱い恋情をけっして悟られまいと心に秘め、ただレイモンドのために心を配るエドワード。ここまで相手
に尽くすには、相手への確かな愛と敬意がなくてはできまいね。
二人のそんな不安定なゆらゆら感が、動乱の時代と相まって、なんとも切ない。
やがて崩れゆく栄華。戦争はすべてを飲み込み、性急に二人を引き裂く。

「生きのびろ」
「どうぞ、ご無事で…」


再びめぐり合う――それは奇蹟にも等しいことかもしれない。
ある種の達観を内包した、その別れすら哀しくも美しい。文章の儚げな品の良さが、なんともしっくりと
際だつ作品である。
欲をいえば、動乱の時代背景やレイモンドの仕事の方も、もっとえぐく描くと大河ロマンスにもなりえた
だろうけど、ジュブナイルとしての制約(お約束)もあるのだろうな。


*この記事は website【CAFE唯我独尊】から移行しました。

テーマ : ボーイズラブ - ジャンル : 本・雑誌

23:08  |  かわい有美子  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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