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2008.08.25 (Mon)

「間の楔」 吉原理恵子

――完全に堕ちた。


間の楔(あいのくさび)  『小説JUNE』1986年NO22~27号連載/1990年 光風社出版/
2001年 クリスタル文庫から再版。

今さら説明することもないと思うのだけど、言わずと知れた(一部では伝説ともいわれている
が)JUNEの大作。SFとJUNEを結びつけた画期的な作品でもあった。


4415088236 間の楔〈1〉帰って来た男 (クリスタル文庫)
 吉原 理恵子
 光風社出版 2001-10


【内容】
中枢的人工知能 ユピテルが創り上げた人間が支配する近未来都市タナグラ。その歓楽都
市ミダスの第9エリア ケレスは、かつてユピテルに反旗を翻したものの、圧制された地区だ
った。住民は市民権を剥奪され、スラム化して最下層に喘いでいる。
そのケレスに、リキは居た。不良グループのヘッドである彼にはカリスマ的魅力があり、気性
の強さ、決断力、それでいて彼の容姿は男たちをもそそる色香をそなえていた。
人間はペットとして交配され育成され、性の奴隷として売買の対象とされるタナグラに
あって、生命の誕生も性別も中央に統制されている。そのため、めったに女の姿のないケレ
スでは、男は男の性の対象でもあったのだ。

一方、ユピテルの創生した人間の中でも支配階級にあり、ブロンディと称されるイアソン・ミン
クという男がいた。
ユピテルにあってイアソンは、完璧な知能と怜悧な美貌を持つ誉れ高き人工体であった。
偶然の接触からイアソンはリキを愛玩物として飼いはじめる。
支配を拒否しながらも快楽におぼれるリキ。
ブロンディであるイアソンがスラムの雑種をペットにしたのは、ほんの一興であったはずだった。
だが、イアソンはやがてリキを愛するようになる。
エリート人工体が持ち得ない感情――下等な感情として蔑むべき情愛を持ってしまったイア
ソンは、決して心を許さないリキに対し、いっそう執着心を深めてゆく。

そんな中、リキの仲間であり、かつては恋人でもあったガイは、リキをを取り戻すために、イア
ソン=絶対権力に立ち向かっていく。そして運命は、大きく変わってゆく――。


ai no kusabi こちらは単行本初版の表紙。
 ドキドキしながら触れた禁断の世界が懐かしく思い出されます(笑)。











【More・・・】

【書評】
この作品は当然ながらフィクションである、なんて改めて言うと失笑を買うだろう。
なんといっても設定はSFだ。夢物語にすぎない。
だが妙に生々しく、リアルなのだ。すべてを凌駕してリアルなのだ。
つまりリアルとは、それがフィクションなのかとか現実なのかが問題ではなく、皮膚感覚ある
いは身体感覚に迫ってくるもの、魂に訴えてくるものであれば、それがリアルなのかもしれな
い。
もちろんそれは、世界感や人物描写、濃密な心理描写が丹念に描かれているからだ。
同性同士の行為も含めてJUNEとか耽美いう架空と世界に、生身の匂いをかぎつけた作品
だった(笑)。

完璧なる人工体イアソンが本来持ち得ないはずの情愛を、「不完全な人間」リキに抱くという
設定の妙味もさることながら、互いの屈折した行動の中に赤裸な情感が見え隠れして、やる
せなく切ない。

  生身と人口体。ペットと主人。
  そういう歪んだ絆でしかつながっていられないふたりであった。


支配する者と服従せざる者――それぞれが己の所属する世界に蹂躙され、翻弄されながら
もひたむきな生き様は濃厚な存在感を読む者の心に刻みつける。
また他のキャラクターも、それぞれの抱える背景を丁寧に描き、重い哀感を醸している。

セックスシーンが濃厚なのはいつも通り(笑)。だが、冷たい刃物を突きつけるような硬質な
文体が甘ったるさを払拭し、作者特有の乾いたロマンティシズムが一層際だっている。

  ふたりで底の底まで堕ちたなら、何かを共有できないかと……
  たぶん、それが空しいあがきだとは知りつつ、結局、その捨て場所は、
  唯一リキのアヌスでしかないのだった。


偶発的邂逅から始まって、尊厳(プライド)や情愛、執着に悶え、苦悩しながら、彼らはその
先にあるものを求めて足掻く。
ラストに向かって醸し出される緊迫感。そして物語は衝撃的な終焉を迎える。

ハッピーエンドではない。
だが、余韻ある結末が語られ、それゆえにくだんの顛末が胸にせまり、「間の楔」というタイト
ルがまばゆい光彩を放つのである。
今読んでも肌が粟立ち、鼻の奥がツンとしてしまう心に残る傑作である。

尚、続編として「ミッドナイト・イリュージョン」(光風社)が出ている。(2002年11月3日 記)



吉原理恵子/作者略歴
間の楔
銀のレクイエム



*この記事は website【CAFE唯我独尊】から移行しました。

テーマ : ボーイズラブ - ジャンル : 本・雑誌

23:26  |  吉原理恵子  |  TB(0)  |  CM(5)  |  EDIT  |  Top↑

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 |  2008年08月26日(火) 01:04 |   |  【コメント編集】

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 |  2008年08月26日(火) 21:11 |   |  【コメント編集】

●カギコメ様へレスです。

1年ほど引きこもっていたら(ネット落ちともいう)ブログの仕様を忘れてて、焦っています。カギコメのレスに悩んだのですけど…えーいっ、正攻法で参りまする。

>梅娘さん、こんにちは♪
濃い世界をお過ごしのことと思います(笑)。
私、ビデオ持っているんだけど、DVDも買っておこうか、ちょっと迷っています。
テープは友人の間をずい分回遊したのでちょっとお疲れになってしまってるし、デッキもお疲れだし(笑)。
ああ、思い出したらイアソン(塩沢兼人)様にお会いしたくなってしまったわ。夜中の買い物カゴに気をつけねば…。


>摩緒さん、はじめまして。
ご訪問ありがとうございます♪
「間の楔」の登場は衝撃的でしたね。私も含めて、中毒症状に陥った乙女(当時…)は相当数だったと思います(笑)。
この作品が放つ刃物のような鋭さと艶かしさは、今でも読み返す度に鮮烈に感じられます!
(いいよね~と、いきなり蕩けるワタシ…)
JUNE時代の作品は今でもすごく印象に残っているものが多いですね。
コメントありがとうございました。
sumika |  2008年08月28日(木) 20:29 |  URL |  【コメント編集】

懐かしいタイトルです!<間の楔

私は授業中にコレのコピーが回ってきて、「なにごと!?」と叫びそうになりましたよ。いと懐かし。

現在、加筆修正された文庫本がシリーズとして発売されてますが、私は初版のほうが好きですね。正直云うと、当時はちょっと文章がドロ臭い(悪い意味ではナイです)なと感じ、作品や内容は好きだけど、吉原さんの文章自体はニガテだったんですけども、あの洗練されていないところが良かったんだ、私ってばホントわかってなかったよな~と思います。そしてBLの世になっても活躍されている吉原さんは…スゴイです。
秋林 瑞佳 |  2008年08月31日(日) 13:51 |  URL |  【コメント編集】

●授業中

秋林さん、こんにちは!

>授業中にコレのコピー
この一言にのけぞりました。い、いいなあ。素晴らしい環境だったのね(笑)。
たぶん少しおねーさんのワタシの頃は、JUNEってものがエロモノ扱いで、よっぽど親しい友人にもカミングアウトするには勇気が…。
何のことない、彼女も愛読してて、「類友」の意味をかみ締めた思い出があります。(あ、茶飲み話になってしまった。)

初版と印象が違うんですか? 再版されるのは嬉しいのだけど、加筆修正は微妙な場合がありますね。
最近の吉原さんの作品は読んでいないのですが、文章にルビをあてて独得の読ませ方をするでしょう。あの感性の鋭さがすごーく好きでした。
すみか |  2008年09月01日(月) 17:26 |  URL |  【コメント編集】

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