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2009.02.16 (Mon)

『風と杜神』久能千明

少年は男ではない。男になるのだ。


1994年桜桃書房、1996年再版

内容
緑深い早岐咲山の杜神であり、龍の化身である伊織は、深夜に泉に佇む幼い少年と出会う。
少年の名は結城道鷹。彼は結城郷の新しい領主として、領地の水系を操る杜神に、取引を申し出る。
自分が成長するまでの5年間、水による災害が起こったら一度だけ防ぐ。
代償は己の命。そう言い切る幼い領主の矜持の高さが好ましく、伊織は取引を承諾する。

それから数年、取引が成就される必要もなく、心身共にたくましい「男」へと成長した道鷹と、
何ひとつ変わらぬ伊織がいた。
伊織の力ではなく、伊織そのものを見つめる道鷹の真摯な視線に、伊織は戸惑う。
一途に心を傾ける道鷹を、伊織が受けとめかねているうちに、道鷹の身辺に不穏な空気が流れ始める。
義母の手引きによる道鷹の暗殺未遂を発端に、遂には結城郷をめぐって戦へと向かっていく。
久しぶりに伊織を訪なった道鷹は、強引に情交を結ぶ。その行為には伊織との決別がこめられていた。
その翌日、圧倒的に不利な合戦に臨む道鷹がいた――。

書評
粗筋だけ読むと、まったくどうってことのない小説に思えるかもしれないのだけど、
大人の男へと成長してゆく道鷹と、歳をとらない伊織の心の動きを丁寧に追いかけていて、
つい引き込まれてしまった。

千秋一日のごとく、まったりと時の移ろいを見つめている伊織にとって、人とは一陣の風のようなものだ。
その伊織が、熱い風(道鷹)と出会い、その激しさに戸惑いつつ、やがて道鷹の恋情を知る。
だが互いの上に流れる時間の相違が、伊織にそれを理解させない。

「ただ優しくするくらいなら、いっそ俺を憎んでくれ」

表裏一体となった愛憎に身を焼く道鷹の激情にさらされながらも、
伊織自身が恋という感情を知るまでには、やはり時が必要なのだ。
遥かに長い時間を生きてきた伊織が「まだ知り染めし」恋に戸惑う様が、妙に可愛くいとおしい。
また、対照的に適当に人間と付き合ってきた伊織の同族、祇汪(ぎおう)の、
頼りがいのあるすけこまし振り(笑)が、ぴりりと利いて小気味よい。
戦国時代が舞台のうえ龍の化身などでてくるが、専門用語などはでてこないので時代設定が苦手な
かたでも意識しないで読めるのではないだろうか。

尚、新版に収められている書き下ろし番外編『寂しさの棲む場所』の、
どうしても叶わなぬ相手を想い続ける匠と、不思議な雰囲気を持つマスターとの物語は、
実は伊織を見守り続ける祇汪と、道鷹を失ってもなお彼を思い続ける伊織の、
ちょっと切ないストーリーなのでした。


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*この記事は website【CAFE唯我独尊】から移行しました。

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