FC2ブログ
2020年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2006.02.16 (Thu)

「リヴィエラを撃て(上・下)」高村薫

1997年6月/新潮文庫

1993年度の日本推理作家協会賞、並びに日本冒険小説協会大賞を受賞した作品。
冷戦時代の国際政治の裏側を暗躍する西側諸国の諜報活動を舞台にしたミステリ。

リヴィエラを撃て〈上〉 (新潮文庫) リヴィエラを撃て〈上〉 (新潮文庫)
 高村 薫

 
リヴィエラを撃て〈下〉  新潮文庫

  by G-Tools


1992年1月、首都高速のトンネル内で、ひとりの外国人の遺体が発見された。
彼の名はジャック・モーガン。彼が「リヴィエラに殺される」という110番通報があってから30時間後のことだった。その電話の主と思しき東洋系の女性も、彼と同居していた自宅のアパートで射殺体となっていた。二人が暮らしていた部屋に残されたものは生後6ヶ月の赤ん坊と、世界的なピアニストであるノーマン・シンクレアの十数枚のピアノ曲のレコードだった。
リヴィエラ とはいったい何者か? 元IRAのテロリストだったジャック・モーガンは、なぜ日本で殺害されたのか。なぜリヴィエラを追っていたのか。さらに、リヴィエラが関与しているらしい重大な機密とはなんだったのか。
物語は過去に遡り、ジャックが求めたものをあぶりだしていく。


謎ばかりを積み重ねて、舞台は一気に14年前のアイルランドへと跳ぶ。
国際国家、組織などのいろいろな思惑が交錯する。それらに翻弄される人間の愚かさ、無力さ、哀しさ。
多くの血が流れる。綿密な設定のなかに垣間見える圧倒的な精緻さ、複雑な社会背景と人間関係が、緻密な文章で組み立てられていく。

リヴィエラの策謀によって、中国からの亡命者である隣人を暗殺してしまうという過ちから、自身も裏切り者として消されてしまったIRAの父親をもつジャック。彼にとって、逃亡先のイギリスでの、ノーマン・シンクレアとのわずかばかりの交流が、唯一の心の拠り所だった。
だが、そのノーマン・シンクレアが、リヴィエラをめぐる陰謀に深くかかわる人物であることを知る。結果として、父の汚名を背負ったまま、ジャックはIRAのテロリストとなる。
父が殺してしまった中国人の娘であるウー・リーアンを愛したジャックは、彼女のためにIRAから抜けるつもりが、CIAに所属する「伝書鳩」によって暗殺者とならざるを得なくなる。

どうしようもない現実に翻弄され、恋人の面影を追いながらも、暗闇に生きるしかなかったジャック。
そして、ジャックを中心に展開する人々の、魂が呼び合うかのような濃密な男たちの関係は繊細でドラマチックだ。
ジャックの激しい生き方に巻き込まれるかのように、情報部員や警察幹部などの様々な立場の人物が、自らの意志で「ひとりの人間」としてリヴィエラの秘密へと立ち向かっていこうとする。
無論、彼らにはそれぞれの思惑があるからではあるが、それでも人が人に対する信頼は、ジャックにとっても読者にとっても、せめてもの慰めであるのかもしれない。
けっして歴史の表に出ることのない静謐な闘いとその終末を描き切ることによって、大河ドラマにも匹敵する壮大な世界が構築されている。

一時期、自分がIRA関係の本を乱読していたこともあって、あまりにも哀しいジャックの生き様に複雑な思いを馳せた。
彼の故郷である春浅いアルスターの風景は、くすんで鄙びた無彩色の世界なのだろう。

   「階段の最後はきっと、まだ神も人間も住んでいなかった頃のアイルランドの大地だ。    
    草と風と空だけがある……」

作中で繰り返し登場する「ブラームスのピアノ協奏曲第2番」のメロディとともに、ビショップスゲートの露天商でジャックの叫び、「ノーマン!」がいつまでも胸に残響する。
運命に翻弄されたジャックとノーマン・シンクレアの関係が、もどかしく、そして息苦しいほど切ない。
胸の底にどっしりと重く冷たい余韻が沈み込んでいく。


【More・・・】

IRA(アイルランド共和軍)、CIA(米国中央情報局).、MI5(SIS/英国情報局保安部)、MI6(セキュリティ・サービス/英国情報局秘密情報部)といった、ややっこしい名称がぞろぞろ出てくるので、もしかしたら苦手な方もいるかと思うのだけど、とにかく、ぜひ最後まで読んでほしい。
そうするだけの価値はある作品である。

以下余談――
前回の小倶楽部('06/2/2)のブログで書いたように、高村薫作品では、私には一番読みやすい世界だったにもかかわらず、レビューには苦戦。
一時期、自分がIRA関係の本を乱読していたこともあって、思い入れが深くなってしまったのかもしれないが、今回はこの作品を語るための言葉が足りない、と痛感してしまった…あうあう。


line_b03_1.gifline_b03_1.gifline_b03_1.gif
【関連作品】
■ マークスの山(上・下)
■ 照柿
■ レディ・ジョーカー(上・下)
■ 李歐(りおう)
■ リヴィエラを撃て(上・下)
■ 神の火(上・下)

テーマ : ブックレビュー - ジャンル : 本・雑誌

20:25  |  高村 薫  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://meimu2.blog70.fc2.com/tb.php/466-defca0a5

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |