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2009.05.17 (Sun)

「火群の森」榊原史保美

かわい有美子さんの『夢にも逢いみん』を読んで、ふと思い出して再読。
久しぶりだったからそれなりに新鮮だったけど……何度目の再読かしらん(笑)。
榊原さんの作品の中で一番好きな小説です。


1992年太田出版 後に双葉社(新書版)

鼈甲を思わせる深い鳶色の膚と炎燃え立つ赤い髪――次期天皇と噂される父を持つ蜂子皇子であったが、その異貌ゆえ斑鳩の里、「ぬばたまの館」でひっそりと時を過ごしていた。
生れ落ちたときから両親に疎まれ、世間と隔絶された生活の中で、すでに蜂子はすぺてに諦念している。
その蜂子の目を外界に向けさせるのが、桜の薄桃の花びらの如く優しく儚い容貌を持つ厩戸皇子(聖徳太子)の、蜂子を思慕する心であった。厩戸は救世観音の化身として、飛鳥の京で華やかな世界の中心にある。
優しい蜂子と、激しい炎のような気性を持つ厩戸。容姿とは正反対の気性に、2人の皇子は互いに激しい憧憬を抱くようになる。だが蘇我馬子と物部守屋の間に渦巻く政略は、やがて皇子たちの距離を引き離すことになる。

スピーディな展開、絶妙な人物配置、流麗な情景描写、そしてテーマのえぐり方も鮮やかである。二人の皇子様を巡り、蘇我の馬子が策謀を巡らして物部一族を戦いにかりたてて、殲滅してしまうくだりなど迫力があり、歴史伝奇(という分野はないかな)の好きな私は夢中になって読んだ。

厩戸皇子と蜂子皇子の互いの執着は、「恋」という言葉で表現できるものではない。
「世間の見る自分」と「本当の自分」のギャップに悩む皇子たちは、理想の肉体(自分の内面を表している肉体)を持つ相手に出会うことで、その姿こそが自分が求めるものだったと、恋わずにいられない。つまり、他者の姿の中に己の存在意義を求めようとするのだ。
だが、やがて蜂子は真の自分に気づき、救われ、厩戸は己の姿を否定することで自身の矜持を保とうとする。
物理的に遠く離れてしまっても、最後まで相手に心を傾け、信じきる。その己を貫くために生死をかける――これは「恋」なんて生半可な感情ではできない、仏の慈悲にも似た「愛」ではないだろうか。
因みに蜂子皇子は実在の人物ではないので、歴史教科書をひっくり返しても無駄である。


4575005967火群の森 (FUTABA NOVELS)
榊原 史保美
双葉社 1997-08

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【関連ページ】
「榊原姿保美」考
「龍神沼綺譚」
「鬼神の血脈」

*この記事は website【CAFE唯我独尊】から移行しました。

テーマ : ブックレビュー - ジャンル : 本・雑誌

23:20  |  榊原史保美   |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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