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2002.10.11 (Fri)

「長恨歌(上,下巻)」山藍紫姫子

「永遠に死なねぇってどういうことか判るか?(中略)
そりゃあ、なあ、そいつに、永久に想われていてぇってことなのさ。
……愛でも、憎しみであってもな」


1994年白夜書房/1999年コアマガジンより再版

内容
『長恨歌〈上〉蛇性の婬』
江戸の豪商・吉野屋の一人娘、澪は街で無頼どもに絡まれ危ういところを、浪人、沙門小次郎に助けられる。彼に恋したお澪は、彼がねぐらとしている廃寺に押しかける。そこでお澪は弁天と呼ばれる美青年が沙門に組み敷かれているシーンを見てしまう。しかも弁天は、沙門と怪僧・鉄が共有する性奴隷だという。
清廉で怜悧な弁天――だが、狂気を孕む沙門と鉄のサディスティックな性を、心では抗いながらも弁天の身体は受け入れてしまうのだ。その度に弁天は屈辱に打ちひしがれる。
沙門への恋心と、女のなりをさせられた弁天への興味から、お澪は次第に彼らと深く関わるようになってゆく。そして、二人がかつて敵同士であり、決闘で弁天が沙門に敗れた結果、性的玩具に貶められたことを知る。
お澪は恋敵である弁天を憎み、嫉妬しつつも激しい情念のままに、縛られて身動きできない弁天を犯してしまう。

『長恨歌〈下〉青蛾』
陰惨な交歓は、やがて仇同士である沙門と弁天の心を通わせようとしていた。
だが、沙門を恋するお澪の姦計にはまり、二人は罠におちる。お澪の父、宗左衛門が予てより狙っていた弁天を捕え、沙門はお澪によって座敷牢に閉じ込められてしまう。
そして弁天は「尻妾」として奥座敷に囲われることになる。
飴と鞭を使いわけるように、宗左衛門は弁天を甘く翻弄する。宗左衛門に思うように弄ばれながらも、だが弁天は沙門を忘れられない。閨で弁天が口走る男の名は、宗左衛門の嗜虐の性と執着をさらに煽ってゆく。
あるとき町中で、弁天は壺井という浪人と出会う。坪井は弁天が原因でお取り潰しとなった藩の下級武士であった。恨みを抱く坪井は弁天を犯し、関係を強要する。さらに旗本の次男坊たちに弁天を売り、輪姦させる。ついに弁天はある決意をもって、壺井たちの待つ廃屋へと望むのだった。

書評
山藍作品に共通して感じるのは、「エロティシズムの領域は本質的に暴力の領域である」というマルキ・ド・サドの言葉だ。
「問題となるのが性欲であれ死であれ、狙いを定めるべきはつねに暴力、恐怖させながら魅惑する暴力なのである」――これは弁天の被虐の性を、実に端的に言い表しているのではないだろうか。
とにかく、ほぼ全編にわたって弁天を中心に情交シーンが続く。まだ処女(おとめ)のお澪の前だろうと、そりゃもう、お構いなしに弁天は苛め抜かれ、あられもなく喘がされ、さすが、耽美ハード・コア小説の第一人者の作品である。個人的には苦手な部類の作品にもかかわらず、その独特な世界に引きずり込まれてしまった。

『長恨歌』同人誌版の後書きによると、この作品はOAV「OEDO808」への「賛美」ではなく、「失望」から書かれたものなのだそうだ。
山藍氏が書かれた「OEDO808」のパロでは、「罪人」という鎖に縛られながらも前向きに(破れかぶれか?)生き、性を謳歌する妖艶な弁天が魅力的で、読み比べてみるのも面白いと思う。(因みにこちらも3人組だが『長恨歌』にあるような3PもSMもない)。
そうなると、当然『長恨歌』における主人公は弁天のはずだった。
だがこの作品において1番印象深いのは「お澪」の存在だろう。この清純かつ淫放なお澪のキャラクターにより、『長恨歌』は単なる時代物ハードコア小説ではなく、底知れぬ深みと凄みを持った作品となっている。

だが、それだけではない。この作品にはもう1つ、「不死者」というテーマが隠されている。
不死者の哀しみや孤独、血を継承することの惨酷さは数あるバンパイア・ストーリーにも描かれているが、不死という閉ざされた煉獄の中で、弁天をめぐる沙門や鉄の執着は永遠にに続くのである。

    「愛とは、人を強くするもの。なれど、その愛ほど、永く続かぬものはない。
     これが憎しみであれば、それは永久(とこしえ)のもの。
    愛を憎しみに変じて、愛しきお方を追って行くのでござりまする」

「女」となったお澪の情念が迫る一節である。
だが、「愛」も「憎しみ」さえも、いつしか刻(とき)は呑み込んでしまうだろう。不死という檻に閉じ込められた彼らの関係は、すでに愛憎すら越えた互いの執着ではないだろうか。愛憎に囚われているお澪は、その1点において「おぬし、まだまだだな」である。つまり、彼女はすでに負けているのだ。

執着と、不死者の檻こそが、凄惨な性を貪らせずにはいられない関係を求めるのかもしれない。とはいえ、不死者でもなく、それほど執着するものもない私には、実のところはっきりと文章にできるほど掴めていないのだった……ごめんなさい。

なお、『シシリー』(コア・マガジン)に『長恨歌』の番外編の短編が収められている。江戸を去った3人の旅の宿の1コマであるが、やはり弁天は激しく苛め抜かれている。鉄が憎らしく思えるほど完璧な憎まれ役を買っているが、それに応えてしまう弁天の身体もすごい……。



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■ 王朝恋闇秘譚
■ 完全版 虹の麗人―『イリス・虹の麗人』
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テーマ : ボーイズラブ - ジャンル : 本・雑誌

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