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2002.08.15 (Thu)

「ゴールデンボーイ」M・ナーヴァ

「もし彼らがあなたに頼んできたら、断らなかったよね?」



4488279023ゴールデンボーイ (創元推理文庫)
Michael Nava 柿沼 瑛子
東京創元社 1994-02

by G-Tools


内容
「ヘンリー・リオス」シリーズの2作目である。
リオスは3年の間にアルコール依存症になり、入院治療して酒を断っている。その後、カリフォルニアのゲイの弁護士ラリー・ロスの誘いで、ソドミー法(正常位以外のすべての性行為を称する総括的な名称)をめぐる運動に参加し、今や有名な活動家となっている。そのラリー・ロスに、殺人犯として逮捕された少年の弁護を依頼されるところから物語は動き出す。
殺された少年を母親は「ゴールデンボーイ」と呼んだ。
新聞に掲載された被害者はまだ幼さを残した明るい髪をしたハンサムな少年だった。
犯人は死体の横で凶器のナイフを手に立ち尽くしていたゲイの少年、18歳のジム・ピアーズだと誰もが考えた。
ゲイである自分を激しく嫌悪し、頑なに己を閉ざすジムと対峙するリオス。ジムは逆行性記憶喪失になり、事件前後の記憶を失っていた。
調査を進めるうちに「ゴールデンボーイ」の実像とジムの関係が明らかになるが、ジムは心を開こうとしない。
そして匿名の電話が「犯人はジムではない」とリオスに告げる。前後するように、ジムは自殺未遂を起こし、植物状態となってしまう。
それでもジムが犯人であろうと、リオス自身も確信を持っていたが、少しずつ積み重ねられていく事実によって、徐々に真相が見えてくる。
後半、事件は急展開をみせる。肛門にナイフを突き立てられた死体の発見、偽装工作、そして犯人が追及されるシーンはスリリング。

書評
第一印象は、ゲイパレードがあったり、6人に1人はゲイだと聞いたりもして、ゲイの権利が日本より遥かに認められているようなアメリカでも、1人1人の抱える問題は変わらないんだなぁ…だった。事件そのものはカミングアウトに焦点があるが、重要な骨子を占めるのはエイズである。かといって、きわもの扱いをしているわけではない。
前作から三年経ち、その時間の経過が及ぼす残酷な現実を、ナーヴァは冷静に見据え、静謐な筆致で描き出す。

「ヘンリー、死には二つの種類しかないんだ。生きながら死んでいるか、さもなくば肉体的に死んでいるかだ」 
エイズに感染し、死を間近に控えている親友ラリーの言葉だ。
生きながら死んでいる者、それはゲイである己を自己否定して生きている者たちである。
事件の調査中にリオスは新しい恋を見つける。その彼、ジョシュ・マンデルもまた、エイズ検査で陽性であった。

   「きみのことが怖いんじゃない。きみのために怖いのさ。
   誰かが、きみを傷つけるかもしれないと考えるだけで耐えられない」

声高にエイズ問題を訴えているのではない。悲壮感を煽ろうとしているわけでもない。作中に描かれているのは、誰でも持ちうる死への恐怖や、愛するものを失わねばならぬ喪失感であり、リオスの言う「偏狭という病気」が引き起こした事件の悲しみと、愛するものを護りたいという力強い優しさである。
大都市のきらびやかな夜に集う裕福なゲイたちのパーティ、ジムが有罪であることを前提に映画化を目論むハリウッドのエージェント、夜の影に巣食う男娼たち――バカバカしいほど華やかな情景を見つめるリオスの視線は、あくまで静かだ。それは彼の戸惑いであったり、怒りを含んだ静けさなのかもしれない。
事件は意外な展開を見せ、危険が伴うジョシュの協力で解決する。
なかなか「愛している」と言えなかったリオスが、「愛しているよ、ジョシュ」と告げるラストは感動的。その一言には、生と死、愛憎など、さまざまな、人が生きてゆくうちに幾らでも出会うような、ごく普遍的な思いが込められているのではないだろうか。

余談であるが、次の3作目 How Town 1990年 『喪われた故郷』で、リオスは疎遠になっていた姉の頼みで、幼児暴行の嫌疑を受けた幼馴染みの弁護を引き受けるために、ジョシュとともに故郷を訪れる。
いくぶん作風が変わったような印象を持ったのだが、1作目の解説によると、この3作目から氏はマス・マーケット(一般市場)に登場したのだそうだ。そのための変化かもしれないと私は考えているのだが、事件に絡めて、リオス自身のセクシャリティーを見つめるシーンが多く挿入され、またヒスパニックとしてのアイディンティティが前面に押し出されている。
残念ながら現在「このささやかな眠り」「ゴールデンボーイ」の2作とも在庫切れの様子だが、3作目「失われた故郷」は在庫有り、4作目「秘められた掟」にいたっては、実に6年ぶりに今年刊行されたばかり。でも個人的には、ここに紹介した2作が好き。
いずれの作品も心理描写が繊細に描かれていて、魅力的です♪


【関連記事】
 ■ Michael Nava(マイケル・ナーヴァ)[作者紹介]
 ■ このささやかな眠り
 ■ ゴールデンボーイ

テーマ : ブックレビュー - ジャンル : 本・雑誌

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