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2009.11.06 (Fri)

「黄金のローマ-法王庁殺人事件」塩野七生

4022640553黄金のローマ―法王庁殺人事件 (朝日文芸文庫)
朝日新聞社 1994-12

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1995年 朝日文芸文庫
3部作最後の舞台は「永遠の都」ローマ。
1537年夏、ヴェネツィア貴族・マルコ・ダンドロが、愛人である遊女オリンピアと訪れたローマは、ルネサンス最後の法王と呼ばれる名門ファルネーゼ家出身の法王パウロ三世が治めていた。息子のピエール・ルイジ・ファルネーゼは教会軍総司令官、孫は枢機卿と、当時のローマはファルネーゼ家が絶大な影響力を持っていた。ローマはオリンピアの出身地でもある。
マルコがオリンピアを通じて知り合うこのファルネーゼ枢機卿は、実はオリンピアとピエール・ルイジ・ファルネーゼとの間の息子だった――と、エピソードを積み重ねていく物語の前半は、ローマという国際都市やその周囲の描写である。

国際都市=単身赴任の外国人が多い=春をひさぐ仕事をする女性の供給が多いというわけだけど(いつの世も殿方はしょーもないね)、宮廷人の女性形である高級遊女と、肉体で仕事する娼婦の違いや、ファルネーゼ家の支援を受けて活躍していたミケランジェロが「最後の審判」を製作する過程、カピトリーノの丘に1tもあるマルクス・アウレリウスの騎馬像を運ぶ様子など、時代描写や細やかな言葉遣いは、まるで自分がタイムスリップしてその場に立ち会っているような臨場感に溢れている。

ところが物語の後半、ヴェネツィア、スペイン、法王庁の連合艦隊がプレヴェザの海戦でオスマン=トルコに敗れ、事態は急転する。
一度はローマに残り、オリンピアと正式に結婚することを決意したマルコだったが、ヴェネツィアから召還され急遽帰国することになる。だがヴェネツィアに帰れば、貴族であるマルコが遊女と正式な結婚をすることはできない。それでもオリンピアはマルコについて行こうと決心するのだが、マルコとの正式な結婚を理由にオリンピアと別れることを認めたピエール・ルイジ・ファルネーゼが激怒して駆けつけてくる。マルコとオリンピア、二人の恋は成就するのか?

この海戦に敗北したことで、ヴェネツィアはやがて衰退していくのだが、『すべての国の歴史は、もっとも華やかに見える時期こそが「終わりのはじめ」であったことを実証している』と著者が述べているように、この3部作はヴェネツィア共和国の繁栄と華麗なイタリア・ルネッサンス文化が終焉へと向かう様を描いている。

タイトルの「殺人事件」は、推理小説的意味合いの事件ではない。だが、マルコとオリンピアにとって重要な意味がある。二人が歩いた街並みや、愛を紡いだ家、そしてローマ人の精神の礎ともなっている多くの古代遺跡など、生き生きとした描写に魅了される。
そして、3部作にわたって微塵も揺るぎない壮麗さは驚異だ。(2004年12月12日 記)
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22:39  |  塩野七生  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.11.06 (Fri)

「銀色のフィレンツェ-メディチ家殺人事件」塩野七生

華麗なるルネサンス歴史絵巻第2部です。
タイトルの「銀色」は「銀色のアルノ、黄金のテヴェレ」と詩人が歌ったことによるのだそうで、
アルノとはフィレンツェを流れる川の名前。


4022640251銀色のフィレンツェ―メディチ家殺人事件 (朝日文芸文庫)
朝日新聞 1993-10

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1993年11月 朝日文芸文庫
今回の舞台は『花の都』を由来とするフィレンツェ。前作『緋色のヴェネツィア』で共和国の公職追放3年間の処分を受けたヴェネツィア名門貴族・マルコ・ダンドロは、旅先に選んだフィレンツェで再び陰謀の渦に巻き込まれる。

史実であるロレンツィーノの「アレッサンドロ公爵殺害事件」がきっかけとなり、フィレンツェが絶対君主制国家へと変貌していくのだが、ロレンツィーノもアレッサンドロ公爵も、メディチ家の一族。
メディチ家がフィレンツェを支配することで芸術が保護され、結果的に大いにルネッサンス文化が栄えていく。
また史実では、アレッサンドロ公爵がロレンツィーノに暗殺され、ロレンツィーノのはとこであるコシモが公爵家を後継する。さらに、このコシモがトスカーナ大公国を樹立することになるわけで、ひとつの殺人事件が歴史に大きな影響を及ぼすわけだから、なんとも皮肉なもの。
メディチ家はルネッサンス芸術を育てた功績はあるが、フィレンツェを権力者による封建的な社会構造としてしまうため、1作目のヴェネツィアに比べて民主性、平等意識などは遅れ、社会的に閉塞感があったようだ。

この陰謀渦巻く世界に色を添えるのが、マルコとオリンピアのロマンス。
彼らの目を通して詳細に描かれるフィレンツェの街並みや日常生活が、ストーリーに厚みを持たせている。
メディチ家によってルネッサンス文化が花開き、その衰退とともにスペインの力を頼るようになり、やがてフィレンツェの国家としての主体を失っていくといった程度の理解でも大丈夫。史実に基いた無駄のないストーリー展開で読みやすい。
また、ルネサンスを代表するボッティチェリの絵画やメディチによって集められた古代遺産、ラッファエッロの首飾りの優れた技巧などが紹介されたり、「ヴィーナスの誕生」についての詳述もあり、芸術面でもちょっぴり賢くなれた気分にも浸れる(笑)。(2004年12月12日記)

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21:57  |  塩野七生  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.11.04 (Wed)

「緋色のヴェネツィア-聖マルコ殺人事件」塩野七生

10月20日から10日間、イタリアに行ってきました。
といっても、フィレンツェとヴェネチアだけ。
イタリア珍道中は後日、【この愚かな日々】に書くつもりだけど、
フィレンツェ、ヴェネチア行きにあたって、勉強がてら再読したのが、
塩野七生(しおの ななみ)さんのルネッサンス歴史絵巻3部作――。

……いいのか、私。
もっと勉強しなきゃならないことがあるんじゃないか?
イタリア語とかイタリア語とかイタリア語とか……

ま、取りあえず、ルネッサンス歴史絵巻第1作です。


4022640081緋色のヴェネツィア―聖(サン)マルコ殺人事件 (朝日文芸文庫)
朝日新聞 1993-06

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1987年週刊朝日連載、1993年朝日文芸文庫
権謀術数が渦巻く地中海世界を描いた、ルネサンス歴史絵巻第1部。
3部作の 『緋色のヴェネツィア』『銀色のフィレンツェ』『黄金のローマ』は、16世紀前半、超大国の脅威に翻弄される、 ヴェネツィア・フィレンツェ・ローマの三都市の物語で、現在はイタリアの3つの都市だが、貴族社会のヴェネツィア、メディチ家が権力を握るフィレンツェ、宗教のローマは、当時それぞれ別々の国。作者曰く、主人公は「都市」なのだそうだ。

ヴェネツィアの名門貴族マルコ・ダンドロを狂言まわしに、ヴェネツィア共和国の大きな歴史のうねりを描いている。
ある投身自殺現場からこの物語は始まる。この謎には、国家の存亡、野望、秘密の愛など、さまざまが思惑が交差していく。

物語の舞台となっている1520年代後半のヴェネツィア共和国は、東にオスマン=トルコ、西にはスペインとフランスが虎視眈々と狙い、そして北にはオーストリアが控えているという、微妙なバランスの中にあった。
ヴェネツィアの名門ダンドロ家の出身でヴェネツィア政府の中心にいるマルコ・ダンドロは、ヴェネツィア元首(ドージェ)アンドレア・グリッティの息子で幼馴染みのアルヴィーゼ・グリッティと久しぶりに再会する。アルヴィーゼはオスマン=トルコの首都コンスタンティノープルで手広く商売をしており、トルコの宰相イブラヒムを通じてトルコ政府とも強い繋がりがある。
通商で生きるヴェネツィアは、トルコとの友好関係をなんとか維持するべく、グリッティの密命を帯びたアルヴィーゼを助けるため、マルコをコンスタンティノープルに派遣する。
結果は歴史が示す通り、キリスト教国であるヴェネツィアはスペインと協定を結ばざるを得なくなり、トルコとの戦闘に突入するのだが、物語は、アルヴィーゼの敗北と恋人リヴィアとの悲劇、マルコと遊女オリンピアの出会いを織り込み、史実と創作とを混在して、展開していく。

「全くの創作である主人公2人以外は、殆ど史実である」と著者が書き記しているように、登場人物、出来事、制度、風習などの記述がリアルで、楽しみながら歴史の詳細が勉強できる。
史実物というと堅苦しく感じるかもしれないが、「夜の紳士達=警察」「聖マルコの鐘楼は、外国重要人物の牢獄」等、事実の説明にもスリリングな語り口。
共和政治のドージェ(元首)が如何なるものかとか、「商船の石弓兵は上流階級の息子がなる」とか、
「未婚の娘は公式の場に出られない」「同性愛者が広まるのを心配した政府が、娼婦や遊女には乳房をあらわにする事を奨励した」(!)、「トルコのスルタンは、妻が敵の捕虜になっては困るから正式に結婚してはならない」などなど、目が点になったり、ウロコが落ちたり、好奇心を満足させられながら物語が展開していく。

ちなみに創作された主人公とは、若きヴェネツィアの貴族マルコと、ローマから逃れた謎の遊女オリンピア。屈折具合がちょっと危うい、魅力的なアルヴィーゼは実在した人物らしい。各国家の仕組みもあるのだろうけど、昔の殿方はダイナミックかつ繊細で素敵だわ~(笑)。

尚、タイトルに「殺人事件」とあるが推理小説ではない。殺人事件の方は物語の導入部にすぎず、メインの話はこれをきっかけにはじまる。陰謀あり、悲恋ありの絢爛たる歴史絵巻だ。(2004年10月28日記)


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23:51  |  塩野七生  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.08.15 (Sat)

思考停止、なんです

ご無沙汰いたしております。
諸々の事情にて、ブログ放置中のすみかです。

個人的事情にて、しばらく壊れておりました。
ようやく復調してきたつもりですが、こーゆー自覚ほどあてになるものではございません。
過去の経験からも、まだ全面復帰までには至っておりませんが、
現在進行形で、地道に真面目に復旧作業中です(たぶん…)。

まだしばらくサイト更新目処が立たない状況ですが、本だけは読んでいるんです。
ほとんど、耽読と申しましょうか、書痴化状態と申しましょうか。
それはもう、自分でも呆れるくらい、溺れるほど。

嗚呼、それなのに、
もう、ここ数ヶ月で何を読んできたか、ほとんど忘れているしっ。
思考停止、とはこーいう状態をいうのかもしれませぬ。
上記諸事情継続のため、今すぐ、ブログ復帰とはいかない状況ですが、ひとまずこの場でお知らせのみ。

00:42  |  本の徒然  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.06.04 (Thu)

「このささやかな眠り」Michael Nava

本の整理をしていて発掘。
ゲイの弁護士が主人公でハードボイルドって設定が当時の私には新鮮でした。
初めて読んだときは夢中になったものだけど、時間をおいて読み直してもやっぱり好きな小説です。
願わくば、まっさらな気持ちでもう一度読めればいいのに……(笑)。


それでも人生は続いていく。



4488279015このささやかな眠り (創元推理文庫)
Michael Nava 柿沼 瑛子
東京創元社 1992-09

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内容
ヘンリー・リオス、33歳。サンフランシスコ郊外に住むヒスパニックでゲイの弁護士である。公選弁護人としてリオスが、金髪で青い目のハンサムな青年ヒュー・パリスと面接したのは「オカマ専用」の留置所だった。罪状は麻薬所持。確かにヒューは逮捕前にマリファナを吸っていたが、彼の服から出てきたというシャーム(麻薬に浸した煙草)の所持については否定する。だが心は開かれず、リオスは名刺を置いて立ち去るしかなかった。
それでもヒューの動向が気にかかり、その午後に拘置所に連絡を入れるも、すでに保釈金が支払われ、彼は保釈されていた。
それから二週間ほど経った夜中に、リオスはノックの音に起こされる。そこにはヒューが震えながら立っていた。彼は遺産相続に絡み、祖父から命を狙われ、追い詰められてリオスをたずねて来たと言う。
ヒューは、地元政界や法曹界にも力を持つ大財閥を継承する家系にあった。しかし彼は幼い頃「男にしては美しすぎる」という祖父に犯され、あげく全寮制男子校に放り込まれ、以来祖父を憎んでいた。麻薬に溺れ、死に怯えるヒューの力になりたいと思いつつ、リオスは彼と交情を交わすようになる。
どこか不吉な影が漂う蜜月は、だが、一週間で終わりを告げる。ヒューが溺死体で発見されたのだ。一族の「黒い羊」であったヒューの死に嘆く者は誰もなかった。
警察が麻薬に酔った挙句の溺死として処理しようとする中、リオスは彼の死を他殺と立証するために動き出す……。

書評
もともとハードボイルドが好きな私である。だが正義を振りかざして熱血する探偵役はあまり好みではない。いや、ストーリーさえ面白ければなんでもOKという節操なしではあるが、好みに合えばそれに越したことはないだろう。
そして私は彼に惚れた。
ヘンリー・リオスは弁護士という職業柄もあって、法律から逸脱することはない。そのせいか33歳という年齢のわりにはとても老成している印象がある。枯れているといってもいほど彼は倦怠している。
もう一方で、ロースクール時代の友人からもっとましな弁護士事務所にスカウトされたとき、「金持ちの代理人をしていたのでは、大衆の叫びは聞こえてこない」と断るような、青臭いほど熱い情熱を胸に秘めている。
『気が狂うか、あるいはもう一度恋に落ちるには十分な時間だ』などと呟きながら、彼はヒューとの恋を意識する。
恋を確信するシーンのさり気なさがいい。

   カストロ・ストリートの角を曲がり、マーケット・ストリートにさしかかると同時に、
   ヒューはそっとわたしの手を離した。わたしたちはゲットーから出たのである。
   だがわたしは手を伸ばすと彼の手にふたたびすべりこませた。ヒューは驚いた
   ような顔でわたしの顔をまじまじと見つめたが、すぐにわたしの手をぎゅっと握り
   しめた。それでも人生は続いていく。

だが人生は呆気なく途切れてしまった。
ヒューを助けられなかった後悔と絶望的な喪失感を抱えながら、決して声高に叫ぶことなく、着実に真相に近づいていくリオスが、またいい。
ついには協力を拒み続けるヒューの母親の心を解放し、依頼人として手を携えることとなるシーンでは私は胸が詰まり、ついでに涙腺まで緩んでしまった。
ハードボイルドとしてはオーソドックスな仕立てだろう。だがリオスはヒスパニックであること、そしてゲイであることに対する偏見とも戦わねばならない。
己の矜持を貫くことがハードボイルドに要求されるものならば、彼の戦いのなんと厳しいことか。たとえ事件が解決しても死者は帰って来ない。
自分が求めていたのは正義などではなく、悲しみのはけ口だったのかもしれない。埋めようのない喪失感に身を置くリオスに、殺人課の女性刑事は慰めるわけでもなく、さらりと告げる。

   「悲しみは、正義の半身だわ」
   「そして残りの半分は『希望』というの」

愛と死が隣り合わせになっている作品であるが、そこからの再生を図る力強さが救いであり、このラストが秀逸である(ようするにベタ惚れっていうことか)。(2002.8.15 記)


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