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2008.08.24 (Sun)

「そして、裏切りの夜が始まる」いとう由貴

詰めは甘いけど、BLにはめずらしいノアール小説。
ブラックなハッピーエンドなので、好みは分かれると思う。私は嫌いではないけど。

千坂翔はたったひとりの家族である弟・俊樹を病院に見舞った帰りに、あるニュースを耳にする。資産家として知られる幣原家のひとり息子が、交通事故で亡くなったというものだ。
幣原家の当主は俊樹の実の父親だ。自分と俊樹はよく似ている・・・
弟を守るためにはこの方法しかない。そう思った翔は俊樹のふりをして幣原家を訪ねるのだが、そこで運命を狂わせる男と出会い!?


「弟の治療費のために」俊樹に成りすまして幣原家に入り込んだ翔。
上手く入り込んだつもりだった翔の企みに、気付いていたのが叔父の信威。
「真実をばらされたくなかったら」というあたりは、お約束な展開なのだが、
実は信威の真意はもっと深い。
その目的のために翔を利用するという流れは、学生時代にはまった「悪女書き」の
カトリーヌ・アルレーを思い出した。もちろん本作の場合は「悪い男書き」だけど(笑)。

幣原家の当主、康成の死によって、「一人息子」の翔は莫大な財産を相続することになる。
そんな大きな欲などなかったはずなのに、翔は引き返せないところまで追い詰められてしまう。

愛人の子として育った信威は、「幣原家の全てを奪う」ことを目標に生きてきた。
康成の死によって、信威は、相続人となった翔の後見人として、
幣原家の全てを取り仕切っていくという形で、図らずもその目的が達成されることになる。

すべてを手に入れたとはいえ、大きな「嘘」の上に、
二人はこれからの生活(未来)を築いていかなければならない。
二人の行く先はなにも暗示されていないが、
健気に頑張る翔が幸せであるようにと祈ってしまうラストだ。
信威の得体の知れない恐ろしさが、この小説をキリリと引き締めている。


4813011721 そして、裏切りの夜が始まる (SHY NOVELS 204)
 佐々木 久美子
 大洋図書 2008-04-26




それにしても、読了したのは一ヵ月半くらい前。
読むのは早いから、そんな本が山ほど溜まっているのよ。
遅筆な自分がカナシイわ…

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2008.08.12 (Tue)

「溺れる体温」 菱沢九月

冒頭、いきなりHシーンから始まる。――というか、本書カバーの説明がすでにエロくさいのだが、
内容は意外なほど硬派で読みごたえがある。

4894861976 「溺れる体温」 (ラキア・スーパーエクストラ・ノベルズ)
 菱沢 九月
 ハイランド 2002-06

by G-Tools


七飯は蜜にまみれて喘ぐ。言えない言葉を掬ってくれる、年下の恋人の
恐ろしく熱い脈動がはしたないほど欲しいのだ。こんなにも―。
七飯章吾は、兄の死で彼の悔恨を知り、その遺志を継ぐ。だが新聞記者の現実に擦り切れ
そうになった時、リョウに逢った。逢えたのだと思う。端整で無邪気で無防備な子供。一途に
ふれてくる唇。リョウに支えられ、七飯は真実の扉を見つけるが。


ストーリーは七飯(ななえ)が新聞記者として事件を追いかける様と平行して、兄が追っていた事件の真相解明と、さらにリョウと七飯の恋愛も同時に展開していく。

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2008.07.23 (Wed)

「小説家は懺悔する」 菱沢九月

きっともう、この心臓は二度と死なない。



4199003444 小説家は懺悔する
 菱沢九月
 高久尚子(イラスト)
 キャラ文庫/徳間書店
 2005-03-26


俺を何度も抱くのは小説のネタにするため…? 
小説家・佐々原脩司の家に同居し、ハウスキーパーとして働き始めた律。佐々原は
ベストセラーを連発し、映画化も控えている人気作家だ。仕事上の好奇心だと言っては
何度となく律を抱く佐々原。律は強引な佐々原の思いのほか優しい愛撫に流され、
次第に心まで溺れてゆく…。ところが、佐々原と主演女優のスキャンダルが発覚し!?


律も脩司も「身近な人間の死」がトラウマになっているから、背景は重いけど、
ストーリーは暗くはない。
食事をしたり、ベッドで身体を重ねたりと、日常を重ねながら、二人は少しずつ
自分の傷を打ち明けあける。
しかし、互いの傷を舐めあうような関係にはならない。その痛みをただ受け止めるだけだ。

「どうしたら俺のこと見捨てないでいてくれる?」
この脩司の言葉の、必死な切なさに泣けてしまう。

生きているってことの煩雑さを、いとおしく思えてくるような、ほんのり切なくて優しい読後感。
気持ちを確かめあうラストが心に沁みる。


続編に「小説家は束縛する ―小説家は懺悔する(2)」がある。
ラブラブだけど、ちょっぴり遠く感じてしまう恋人たちの距離感は、たぶん誰でも経験すること。
互いを思う心と、二人の結びつきの深さがよくわかる。

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2008.07.17 (Thu)

「黒羽と鵙目」 花郎藤子

「いつだって本気に変えてかまわねぇんだぜ…?」 by黒羽



初版は1996年花丸ノベルズ……もう12年も経つんだなー。何気にショック。
しがないバーテンダー鵙目隆之は、拉致同然に連れ込まれたマンションの一室で、
黒羽組の組長、黒羽斉彬と再会する。
それは16年前の天山少年院で繰り返された陵辱の再開でもあった。
抗いながらも、黒羽の魅力に惹かれていく自分を、鵙目は認めまいとするのだが――。

鵙目の姉に対する思慕、因縁の仲である前田、鵙目と前田の関係を疑う黒羽斉彬との
奇妙な三角関係を中心に、鵙目を慕う落ちこぼれのマサルや鳩子たちを巻き込み、
また巻き込まれながら、物語は現在も進行中。

4592850262 黒羽と鵙目 1 (花丸文庫BLACK)
 花郎 藤子
 白泉社 2008-06-19



花郎藤子氏自身による『禽獣の系譜』の二次小説(パロディ)であるが、
共通しているのは黒羽が極道であることくらいか。
とはいえ、『黒羽と鵙目』の方も切なかったりするが、ライトに書かれているから読みやすい。
こっちの黒羽は(こと、鵙目に関して)オバカで可愛い。いや、私はいらないけど(爆)。

尚、黒羽、鵙目とも上記作品と名前、性格設定なども異なり、
二次小説とはいえ作品として独立している。

性格の相違が楽しいので、以下で人物紹介をさせていただく。

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2008.07.16 (Wed)

「私説三国志 天の華・地の風」シリーズ 江森 備

「江森三国志」とも言われる三国志パロディ本の力作。
「同性愛がなければ」という怨嗟が絶えない、いわくつきの作品でもある。
冷徹怜利のカリスマ軍師である諸葛亮孔明(以下本書の表記に従い、
諸葛亮ではなく孔明で統一)が同性愛者として描かれているばかりではない。
劉備を中心に蜀内部の血みどろな権力闘争をストーリーの本流として、
登場人物の各人を欲もエゴもあり嫉妬もする生々しい人間として捉えている。
どろどろした人間関係や、水面下での攻防などもリアルに描かれているのも面白い。
つまり、三国志を下敷きにした数ある作品の英雄像をきっぱり裏切っているのだが、
それはこの作品において必然なのだ。

愛を求めつつも、孔明の根底には根強い人間不信がある。
彼にとって他者は利用価値があるか否かでしかない。
たとえ愛を与えられても頑なに心を許すことができない。
それゆえ人々に一目を置かれながらも、孔明は常に孤独だ。


  肉からはじまった愛はどんなに固く心を繋ぎあおうと、
  結局、肉欲であることに変わりはないのだ。


悦楽に狂乱しながら、孔明の意識はどこかで醒めている。
その孤独な魂を際だたせるための道具立てとして、孔明は同性愛者という異端の立場を与えられている。
さらに、従来は英雄譚として語られる孔明を巡る人間模様が、
身内をも含め矮小に描かれる<必然>を、流麗にして硬質な文体で描き出している。

濃密に描かれた心理描写とともに、政治、経済、戦略戦術、陰謀についても丁寧に、
要所要所で正史の記述が矛盾なく組み込まれており、男色シーンでつまずかなければ、
三国志ファンがハマる要素大――がんばれ!
――ただし、劉備ファンは読まない方がいいかもしれない。

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22:10  |  江森 備  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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